検索窓
今日:1,024 hit、昨日:1,094 hit、合計:1,065,468 hit

31 ページ32

.



「Aちゃん、最後なんだし好きなところの試合観ていけば?」



_____



「え、A!? 何で此処に……」
『最後の試合だから好きな所を観ていいってお兄さんが……お邪魔してもいいかな』
「も、勿論。な、凪!」
「うん。Aが居るなんて珍しいね」
『試合にお邪魔するのは初めてなんだ』



一次選考最終日。元々、表に出てこそいないが実は居たりする整備員の方やらが主に専門的な仕事はしてくれていたのでそこまで大変では無かったが、最終日は特に仕事が少なくなる。

普段なら後片付け等に奔走しているが、今日はそこまでは忙しくならないから観ていても大丈夫でしょ、とはお兄さんの言葉だ。凛君達の試合もやっていたりと選り取り見取りなラインナップだったが、何となく此処に足が向いていた。

だから少し興奮してる、と両手の指の腹を合わせて笑えば御影君は「俺らが最初って事?」と嬉しそうに弾ませた声で喜んで見せた。そんな御影君に引っ張られながらも、試合前にも関わらず気怠げに脱力した様子の凪君は「ふーん」と私を無気力そうな瞳で見上げる。何だろうか。



「今回も休みたかったんだけど……そっか、Aが居るなら俺も頑張ろ」
『ん? ……ありがとう、じゃあ楽しみにしてるね』
「うん」



普段の様子を見ても、確かに凪君はサボり魔というかかなりの面倒くさがりだ。部屋に物を回収しに行った時にも、他の皆が居ない中一人でゲームをやっていたくらいには練習をしている様子を微塵も感じられなかったが、それでもトップランカーなのだから才能を感じてならない。

相変わらずのほほんとした話し方だが、私を真っ直ぐに見つめて「頑張る」と言った彼に、どう反応すべきかと思わず目を瞬いてしまった。声の張り方がとてもそうでは無かったが、彼が「頑張る」だなんて楽しみな話だろう。



「なぁ、髪の毛結んでくれね?」
『ふふ、いいよ。何時もの一つ結びでいいの?』
「よっしゃ。サンキュ」
『どういたしまして』



何だかんだ私に慣れたのか、直に触れてもギリギリ耐えられる様になった御影君からの可愛いお願いに手で丸を作って了承する。美人は三日で慣れる、ってやつなのかな。残念。

癖のないサラサラとした彼の髪に指を通して、彼の尻尾の様な一つ結びを思い起こしながら髪ゴムを通す。髪質ですら上品なのは流石御曹司といったところだろうか。凄いな、ちょっと羨ましい。

32→←30



目次へ作品を作る
他の作品を探す

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
3812人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:信楽 | 作成日時:2022年12月25日 2時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。