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「Aちゃん、客」
『え?』
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モニター越しにお兄さんと連絡とれそうだね、と言ったのは確かに私だがまさかあのお兄さんがノるとは思わなかったのが心の内である。簡潔にそれだけ述べて私を医務室に向かわせたお兄さんを不思議に思っていたが、部屋に入れば十を言わずとして要件は理解出来た。
確かに、三年連続保健委員の称号は伊達じゃないが。仮病を使ってまで私に絡んでくる人も居たし、私の顔を正面から浴びて階段から落ちかけたり、ボールを受け損なったりエトセトラという事で怪我をした人も居た。
三年間、保健室の利用数が異常に高かったのは間違いなく私のせいだろう。保健委員にとことん向かない私を推薦し続けたクラスメイトにはほとほと困ったものだったが、おかげで怪我の手当は手馴れたものだ。
『はい、どうかな?』
「……おおきに、すっかり良うなった気さえするわ。上手やね」
『訳あって慣れちゃったの』
「嗚呼……なんぎやね」
何を言いたいかと言えば、要は怪我人の手当に医務室に駆り出されたというだけの事だが。
聞くにバランスを崩して手首を軽く捻ってしまったらしい、愛らしい顔立ちの氷織羊君___基、氷織君に一通り処置を施し終えれば、彼は頼りなく眉を下げて頬を緩めた。
『安静にしていれば明日には治ると思うよ』と包帯を戻しながら言う私の言葉に、彼は涼やかな色合いの髪を揺らして少し元気無く笑う。
『氷織君、大丈夫?』
「いや。僕、情けないなあって……」
思わずと言った様にボソリと呟いた彼は、一拍おいてその事に気付いたのか口元を怪我していない方の手で押さえて「わ、忘れて!」と慌てた様に口早に告げる。
怪我した事を気にしているのなら、この事故は完全に裸足でトレーニングなんてさせているお兄さん側に問題があるので彼のせいでは無い。『気にする事ないんだよ』とソファーに座った彼を地面に膝をついて見上げれば、彼は観念した様に一つ短く息を吐くと「そうやなくて……」と掠れた声を零す。
「前に月野さんが絡まれておった時も、僕見てるだけで何も出来んかったんよ」
「目が合っただけで、体が動かんくなってもうて」と恥ずかしそうに言う彼。その言葉で、乙夜君と話をしていた時に目が合った子が彼だと気付く。あの時かと納得いく私と対称的に、彼は「ホンマに情けないわぁ」と目の前で静かに自身の指を絡ませて目を伏せた。
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作者名:信楽 | 作成日時:2022年12月25日 2時