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『?』



見つけたのは偶然であった。やけに備品の減りが速いから確認してきて、と言われて来た先で見つけたのはヘッド部分の毛が一本残さず消え去って丸裸にされたのがこの歯ブラシである。

これは………一体どういう事なのだろうか、業者の不手際、なのかな。しかし、配置する段階で既に不良品が無い様に確認しているので、その様な事は万が一にも有り得ないはずなのだが。



『………??』
「なにしてんの、A」
『赤裸な歯ブラシに困惑してるの』
「あ〜、それな」



監獄仕様の青い歯ブラシを握り締めて立ち尽くす私を後ろから覗き込んだ千切君の問いに率直に答えれば、彼は思い当たる節があるのか、何処と無く苦笑いを浮かべた。

お風呂上がりなのだろう、髪の水気をタオルで拭いながら「まあ、玲王だろうな」と断定してみせた彼に首を傾げる。想定内と言わんばかりに、千切君が眉を下げて笑うものだからますます分からなくなってきた。



「花占いならぬ歯ブラシ占いしてんだよ」
『一本ずつ抜いて……?』
「そ」
『う〜ん……』



生憎花占いなんてものをやった事が無いので、彼がどういった気持ちで歯ブラシの毛を根こそぎ毟っていったのか、その気持ちは分からない。『どうしてこんな事になってるの?』と千切君を見上げて質問すれば、前にも聞かされた事と同様に「凪に置いてかれたからじゃね?」と彼はコテンと首を倒して言った。

一度目に聞いた時には、私が正しく意味を理解出来ていないか千切君の冗談かと思っていたのだが、どうやら本当にそれが理由らしい。しかし、当の凪君は先程会った時も御影君の話を普段の調子でしていたし、御影君がこんなに落ち込む様な形で置いていったとは到底思えない振る舞いをしていた。



『ねぇ、千切君』
「っ、ちょ、まっ」
『凪君の方は平気そうだったから尚更不思議なんだけれども、御影君は……………千切君?』
「まじで、近いって」
『千切君はてっきり私の顔に耐性あるのかと思ってたな』
「……いや、普通に無理だろ」



私が深く突っ込む問題でも無いとは思うが、正直気になってしまう。が、私の好奇心よりも御影君の精神状態が心配だと思い、他に聞こえない様に千切君に耳打ちして聞こうとするもどうも反応が鈍い。

そっ、と離れて俯きがちな彼の顔を覗き込めば彼はすっかり真っ赤になっていて。何気に初めて見るかもしれない彼の反応にクスクスと笑う私を、彼は恨めしそうにジロリと睨み上げた。

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作者名:信楽 | 作成日時:2022年12月25日 2時

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