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本人が出来ると言うのなら、私は専門家でもあるまいしお任せしようと思う。変に居座って邪魔するのも本望では無いし。だから、彼の言う通りお暇させてもらうつもりでは居るが、その前にしてみたい事があって彼に一言告げてから部屋を駆け足で飛び出す。

食堂に寄ってから、戻る途中で洗濯部屋にも寄って。ちょっと遅くなってしまったから閉め出されちゃうかも、なんて思いながらトレーニングルームに戻れば、私の言う通りに先程と全く同じ場所に立ったままで彼が居て『律儀だね』と感心して笑う。青磁色の瞳が怪訝そうに歪むのが見えて眉根をゆるりと下げた。



『ごめんね、思ったより待たせちゃった。………はい、良かったら差し入れどうぞ』
「……これ、」
『また後で取りに来るから、分かりやすい所にでも置けば大丈夫だよ。じゃあ、頑張ってね』
「………嗚呼」



差し出した、スポーツドリンクの入ったスクイズボトルと乾燥機にかけたばかりのふわふわタオルを受け取った彼。満更でも無さそうに受け取って少し放心気味な彼の邪魔をしたくは無くて、応援を一つ送り身を返した私の手首がパシッと乾いた音を立てて掴まれる。



「凛」
『?』



自己紹介はした筈だが。誰かと勘違いしているのかと首を傾げる私を恨めしそうに睨みつけて、彼はもう一度「だから、凛」と繰り返す。妙に気恥ずかしそうなその態度に、もしかしてと合点が行く。



『凛君?』
「……ん」
『そういえば名前聞くの忘れてたね。教えてくれてありがとう、頑張れ凛君』



言ってしまえば怒られそうだが、可愛らしい響きにてっきり誰か他の女の子の名前を呼んでいるかと思ってしまった。が、いざ目の前の彼と合わせてみると、涼し気な整った顔立ちに良く似合う名前だろう。

苗字は教えてくれなかったが無理に聞き出す事もないか。そう思い「凛君」と微笑んで呼べば、彼は相変わらずの仏頂面ではあるが何処か擽ったそうに目を細めてそれを享受する。

手を振ってまでした応援は反応が貰えずスルーされた形になるが、去り際にチラリと視線が送られた事だけは横目で見えた。何と言うか、末っ子気質が強い子だ。



『もう起床時刻かな』



自然光が差し込まないこの監獄内では若干体内時計が狂ってしまうので着けている時計が表示した時刻を見て、いよいよかと一つ大きく背伸びをする。選手が起きてからが一番忙しいだろうが、先ずは負傷者を出さない様に努めたいな。頑張れ私、頑張れ皆。

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作者名:信楽 | 作成日時:2022年12月25日 2時

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