47話 絵画 ページ5
チーノの話を聞いて、転生者とはまた違う境遇の話を聞いて…不平等だとまた思う。
…転生者は死んで新しい人生としてこの世界を生きる。
異世界者は、ただ前の世界から誘拐されただけだ。
「…辛かったろ……」
ポロリと落ちた言葉に、チーノは黙って頷く。
「…ひとつ、聞きたいことがある」
「なんでしょうか……」
「…この世界に来る前の、名前を教えてくれ……」
彼の本当の名は「智乃 侑磨」と言うらしい。残念だが前世での知り合いというわけでもなさそう。
「…この事は、ここでの秘密にしておこう。変に明かしても混乱するだけだろうし」
「…いつか、A先輩の話も聞けますか…?」
私の事、か……
「この件が一段落着いて、面白くない話が聞きたくなった時ならいつでも」
何の変哲もなくつまらない、平凡な人生だったから。
…さぁ、明日から少し忙しくなりそうだな。
朝、目が覚めたのは起床時間の1時間前…いつも通り庭に出る。
昨日の衝撃からは立ち直り受け入れる覚悟も十分できた。
私が真の聖女だとしても、やる事は変わらない。自分にしかできないことで、この国を支える。
それだけは履き違えてはならない。
それに、まだスパイの件も終わってない。気を抜いたら負けだ。
ふと空を見上げたらまだ早朝だと言うのに蒼すぎる空が視界に広がる。
もしも、私が役目を果たすことなくこの命を無駄にしてしまうような事があったら…
レティにこの国を乗っ取られたら。
すぐそこに迫ってきている未来だと言うのに、瞑想のひとつも出来ない。
この国を変えられるのは、今は私だけだ。
そう考えただけで足枷を嵌められたように踏み出そうとする足が重く感じる。足だけじゃない、背負ってると錯覚した背中だって……
まだまだ、弱虫なんだな。
そんな事を思いながら、誰もいないであろう食堂に1人向かう。
ガチャっと扉を開けてもいつものような騒がしさはなく、ずっとこのままでいいのになんて思う。
総統閣下の席の後ろに飾られている大きな絵画には、祭壇に祈る純白のドレスを来た黒髪の女性の後ろ姿が描かれていた。
その絵に優しく手を触れる。
不思議な感覚に、その絵に意識を取られそうになったその時、
「随分と早いな、A」
「…総統、閣下……」
ニヤリと悪い笑みを浮かべた総統……いや、グルッペン様の姿があった。
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ポンコツ - めっちゃ面白くてどんどん読めました!マジ神作! (2021年5月15日 8時) (レス) id: 325f452e67 (このIDを非表示/違反報告)
隻狼姫(プロフ) - えっ、おすすめに出てきたから見てみたら面白くて一気読みしてたんですけど、まさかお気に入り登録してるtwst小説の作者さんだったとは…そりゃ面白いわけですわ… (2020年10月7日 21時) (レス) id: efc986c11a (このIDを非表示/違反報告)
暁郗 - 次回が最終回…だと…!?うああああ……待ちきれないぃぃい…。むっちゃ楽しみです!! (2020年9月26日 0時) (レス) id: 14cb33816d (このIDを非表示/違反報告)
kiito - あぁー最終章に突入してしまった〜!嬉しいけど寂しい(´;ω;`) (2020年9月21日 22時) (レス) id: 840ffe907d (このIDを非表示/違反報告)
ぽんちゃ(プロフ) - レティまさか、、、味噌汁に*を、、!?だから夢主は*に関する本を教授のいる図書室から借りてキッチンで*を作ってから飲んで耐性を付けたんですか!!?(*←のところ合ってるか分かんない、、) (2020年9月16日 20時) (レス) id: c3d604437a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:彼岸桜+α | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2020年6月6日 9時