78話 偽善を並べて ページ38
「ほう……この期に及んで聖女を否定するのか。“そこの女”は」
氷点下の瞳に見下されたレティは言葉を失い、震え出す。そんな様子を見てもグルッペン様は口を閉ざすことはない。
「今の言動は“聖女侮辱罪”にあたることは理解出来ているんだろうな?」
また、悪いことを考えていらっしゃる。…それに乗らないわけにもいかないが。
「…グルッペン様、私は気にしてなどいませんのでどうかそのくらいにしてあげてください。自身が聖女じゃ無かった事にショックを受け、気が動転してしまっているのでしょう」
ねぇ?と言えば唇を噛み締めてそのまま俯いていた。
…あぁ、なんだ。私もなかなかに性格が悪いじゃない。
途端会場から聞こえる小さな声。
「…優しいわ」
「なんて寛大な心を持っているんだ…」
「あの方が聖女様だ…間違いない」
あぁ、なんて単純なんだ。レティを聖女だと前から信じていた人達も私の事を認めていた。
ふと、入口のドアのところに寄りかかりこちらを見ているゾム先輩と目が合う。
口パクで『やってんなぁ』と伝えてくるので笑うしかない。
「…聖女Aよ、これから俺たちと共にこの国を創っていこう」
「…ハイル・グルッペン」
グルッペン様の目の前で跪き、手の甲にキスを落とした。
「…なんでっ……」
挨拶に来てくれる方々の相手も終わり、幹部の方が残る。
「…レティやなくて、Aが聖女やってんな」
鬱隊長がタバコの煙を吐きながら言う。他のみんなも口には出さすとも同じことを考えているんだろう。
「…なんで言ってくれんかってん」
「…まぁ、今までの皆さんに何を言っても信じてはくれなかったでしょうし」
ほんの少しだけ、皮肉を言えば言葉を詰まらせる。…ほんとに、私は聖女でいいのか。
でも、本心に変わりはない。
「…チーノの預言者って、なんなん」
トントン書記長が疑問を呟き、チーノはその説明をしようか迷っているようだった。
自分の過去の話を持ち出すべきか悩んでいるんだろう。
「…Aさんが転生者って事はもうわかったと思います。俺はA先輩が転生する前の世界から来た異世界者です。
もちろん、家族や友達は向こう…もう会えないと思いますけど」
自虐的に笑うチーノが、寂しそうに見えたのは一瞬だけ。
「…今は、A先輩の手伝いをすることが生き甲斐なんで」
2096人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ポンコツ - めっちゃ面白くてどんどん読めました!マジ神作! (2021年5月15日 8時) (レス) id: 325f452e67 (このIDを非表示/違反報告)
隻狼姫(プロフ) - えっ、おすすめに出てきたから見てみたら面白くて一気読みしてたんですけど、まさかお気に入り登録してるtwst小説の作者さんだったとは…そりゃ面白いわけですわ… (2020年10月7日 21時) (レス) id: efc986c11a (このIDを非表示/違反報告)
暁郗 - 次回が最終回…だと…!?うああああ……待ちきれないぃぃい…。むっちゃ楽しみです!! (2020年9月26日 0時) (レス) id: 14cb33816d (このIDを非表示/違反報告)
kiito - あぁー最終章に突入してしまった〜!嬉しいけど寂しい(´;ω;`) (2020年9月21日 22時) (レス) id: 840ffe907d (このIDを非表示/違反報告)
ぽんちゃ(プロフ) - レティまさか、、、味噌汁に*を、、!?だから夢主は*に関する本を教授のいる図書室から借りてキッチンで*を作ってから飲んで耐性を付けたんですか!!?(*←のところ合ってるか分かんない、、) (2020年9月16日 20時) (レス) id: c3d604437a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:彼岸桜+α | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2020年6月6日 9時