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『ただいまー』
ユリ「おかえりー!」
いつもは返ってこないはずの返事が今日は聞こえる。慌ててリビングの戸を開けると、ユリちゃんが夕食の準備をしていた。
『ユリちゃんどうしたの!』
ユリ「たまには一緒にご飯食べたいなと思って、早めに帰ってきちゃった」
年がら年中忙しいユリちゃんとご飯の時間が合うことは滅多にない。だからこうしてたまに仕事を切り上げて帰ってきてくれる。
ユリ「…もしかして、走って帰ってきた?」
風に煽られ膨張した髪の毛と、整わない呼吸に気づいたユリちゃんが不思議そうな目で見ている。
『あぁ…ちょっと色々あって、急いで帰ってきたから』
ユリ「何かされたの!?」
『いや何も無いよ!!』
ユリ「…ならいいけど」
前に何かあったら飛んでいくと言っていたけど、ユリちゃんの性格だと本当にやりかねないから怖い。
もしそうなれば余計に目立ってしまう。それだけは避けようと体育館での出来事を、料理を続ける背中に向かって話した。
『それでさ、その流川って子が私の事知ってるみたいなんだけど、友達だったのかなー…
ってユリちゃんに言っても分からないよね!ごめん』
私の何気ない一言に、ユリちゃんが手を止めた。
ゆっくりとこちらに振り向く。
やってしまった。
6年前の話をするといつも見せる、悲しいような申し訳ないような表情。
もうその話はしないと決めていたのに。
ユリ「ここにいたこと…やっぱりまだ思い出せない…?」
『…うん』
人に聞かれるたび、あまり覚えていないとはぐらかしていた小3までの事。
本当は覚えていないのではなく、記憶を失っていた。
唯一覚えているのは両親との思い出。
3人幸せに暮らしていた記憶。
学校や友達、外での生活はもう思い出せない。
ユリちゃんはきっと今も自分を責め続けている。
妹夫婦である私の両親が亡くなるきっかけをつくったのは自分だと。そして両親を失った私を言葉も文化も何もかも違うアメリカへ連れて行ったせいで記憶がなくなったのだと。
『思い出せないよ…でも、別にそれでも良いと思ってる。
私にはユリちゃんとの今があるし、それで十分。
過去なんて、いつかは忘れるものでしょ?』
9年間の記憶を、要らないと言えば嘘になる。
でも、ここまで育ててくれたユリちゃんとの今が大事なのは本心だ。
私は大丈夫、そう言うように笑ってみせた。
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星 たるふ(プロフ) - 早桃さん» そう言って頂けると本当に嬉しいです。ありがとうございます!なんとか最後まで頑張ってみようと思います…! (2023年2月12日 23時) (レス) id: 695404ddf3 (このIDを非表示/違反報告)
早桃 - めちゃ面白い!好きです!!これからも無理せず更新頑張って下さい!応援してますぅぅぅ!次の更新楽しみ! (2023年2月12日 12時) (レス) @page32 id: ac42bf1e6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:星 たるふ | 作成日時:2023年1月1日 12時