十八話目 想いは嘘じゃない ページ18
あの村を離れる前に、一つの墓を建てた。
それは二人の人のため墓。遺体はない、それでも形を残したい。
彼らがまた、一緒にいられるようにという形が。
三＞...で、遺体のねえ墓に経を読めと。
主＞三蔵、お願いします。
好きな人と最期まで会えないなんて、身を引き裂かれる様な思いはして欲しくない。
自分は、必ずまた会える奇跡があるって信じてます。
この村も、もう廃村となってしまう...ここに生霊が残らないように、もう妖怪に苦しまないように...。
Aは墓を見つめて両手を合わせた。
三蔵のため息が聞こえ、足音がする。やはり無理かなと思ったけれど、彼はその墓の前に立って唱える用意をしていた。
やはり、貴方は優しい。
貴方がいたから、自分はここにいられる。
貴方が助けてくれたこの命を、自分は彼のために生きたいと願った。
自分勝手かもしれない。貴方がいてくれたから、あの約束が出来た。５００年経った今、それを覚えているのは自分と彼だけ。
でも、約束を覚えてなくていいんです。
今ここで、彼らといられるから。それを覚えてなくても自分達はまた会えました。これは神様の計らいってやつでしょうか。
貴方に出会わなければ、あの日に自分は生きる事を諦め死ぬつもりだった。
主＞..........金蝉様。
ぽつり、とあの人の名前を言った。
もう呼んでも、振り向いてもらうことはない。
その人は、経を読むのを辞めてこちらを見た。
主＞...自分の我儘、聞いてくれてありがとうございます。
三＞ふん。
主＞行きましょう、三蔵。皆待ってます。
三＞.....おい。
歩き出そうとした自分の手を掴んだ三蔵。
三蔵はその手を引いた。強く引かれた事でバランスは崩れ、彼の元へと倒れる。
そのまま手を掴んだまま、じっとそこにいた。
三＞.....お前が選んだ道だ、好きにすればいい。
そう言う三蔵。あの時と変わらない、温かい人。
昔から、そうだった。
どういう意味、なんて聞けなかった。その言葉が出なかった。
代わりに出たのは、涙と泣き声。
彼の胸元で泣いて、泣いて、沢山泣いた。
後悔じゃない、悲しいからじゃない。
その言葉が、あまりにも胸を熱くした。
だから、涙が出た。
ありがとう、そう言えば彼はきっといつものように何も言わないと思う。
だから今は、ここで泣いたままでいたい。
あの日々が、想いは嘘じゃないとわかっていたいから。
そんな彼らを、一人の青年は何も言わずに見ていた事は、泣かせた本人しか知らない。
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作者名：霜月 | 作成日時：2023年5月7日 15時
