一話目 地獄で会った人 ページ1
腹の辺りからジワジワと痛みが広がる。
立っていられなくて崩れ落ちる身体を悟浄が受け止めてくれた。
彼が僕の声を呼ぶけれど、声を出せない僕は口を開こうとする度血を零す。
今目の前の人で笑っている人は、もうAではないと…わかってしまう。
ああ…死ぬのか。
Aを助けられないまま、僕は先に逝くのか。
まだ聞けていないのに、返事が聞きたかったな。
泣きそうな悟空がいる、そんな身体を揺すったら駄目ですよ。
三蔵は顔は見えないけど貴方のことだ、前に進める強さがあるのだから貴方は大丈夫。
悟浄が叫んでくれている。
でも、聞こうとしても聞き取れない。
今出来たのは、彼の腕を掴み…息を吐きながら彼を見る事だけ。
悟浄、Aをお願いします…。
貴方がAを止めてください、そして…幸せにしてあげてくださいよ。
そう言葉にしたい。伝えたいのに。
もう助からないと身体がわかっている、言葉が出てこないまま…瞼は重くなって閉じようとしていた。
花喃、僕は呆気ない男だったようです。
貴方に会えたら……いや、貴方に会えるはずない。
僕の逝く先は、貴方のいる天国ではなく…地獄なのだから。
?>「ここに来ては駄目です。」
そう声が聞こえた。
すぐに眼を開く事が出来て、僕の横にはとても美しい女性が座っていた。
その雰囲気が、あまりにも彼女に似ている。
顔つきも、声も、何もかも。
?>「ここへ来てはいけません、今すぐお戻りください。」
八>……ここは、地獄なんですか。
彼女の言葉を無視するような事を言う。
何もない、空と地面の草や花があるだけ。
地獄とはかけ離れたとても平穏に感じる世界、何でこんな所にいるのだろう。思ってたのと違うな。
この人が誰なのか、どうして僕にそんな事を言っているのか。
?>「貴方がそう思うなら、そうかもしれません。
けれど、貴方が違うと思えばそうなります。」
八>…?
?>「心理のまま、この世界は成り立ちます。
けれど、ここにいたら貴方は戻れなくなります。」
八>……死んだんですか、僕。
呆気ない事だけど、こんな場所にいるんだからそういう事になってしまう。
乾いた笑いが出てしまう、そんな僕に彼女はさっきよりも必死な顔で僕と目を合わせてきた。
やっぱり似てる、あの時と同じだ。
片眼を失ったあの夜と同じ。
八>……参ったなあ…。
僕、やっと……大事な人を守れると思ったのに…。
貴方にまで、そんな顔はして欲しく無いな。
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作者名:霜月 | 作成日時:2023年5月7日 15時