ケーキ王子の名推理 (ページ5)

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明るいブラウンの木と大きなウインドウを組み合わせた店の外観は、スッキリと洒落た雰囲気あがる。

金のプレートに『 Mon Seul Gateau 』と書かれたその門構えからは上品な甘い香りがしてくるようで、それは女子を惹き付ける特有の気配を漂わせていた。

間違えない。

ケーキ屋さん(パテイスリー)だ。

Aは躊躇(ためら)ったあと、勇気を出してアンティーク調のドアノブを握る。

磨(す)れた金属の、ひんやりとしつつ温かみのある手触り。

ノブを捻り、ドアを引いたとき____Aは不思議な感覚に襲われた。

少しだけ違う世界に足を踏み入れていくような、おとぎ話の主人公になったような錯覚に包まれた。

おずおずと入口をくぐる。

店の中は、優しくて甘い香りがした。

明暗のブラウンで統一された内装は、甘い香りと相まって上質な焼き菓子を彷彿(ほうふつ)とせる。

正面のショートケースはつやつやとして、ムースに載ったジュレ(ナパージュ)のようだ。

隅々まで手入れの行きとどいた清潔感のある店内。

壁の飾り棚には、心の和む小動物類が並べられていた。

____ああ、ここは絶対に美味しい。

Aは体の奥から希望が湧いてくるのを感じる。

そのとき、ガラス越しの厨房に人影が現れた。

白い制服(コックコート)を着たパティシエが、腕の腱を伸ばしながらすたすたと台の前までやってくる。

と、こちらに気づく。

彼の顔を見た瞬間____Aは心臓が止まりそうになった。

綺麗で涼しげな目、すらりと伸びた手足、彼のまわりだけ空気がいっそう澄んでいるような光るオーラと、清潔感。

高橋海人(たかはしかいと)。

Aが通う高校の人気ナンバーワン男子。

学校の女子から『王子』と呼ばれている。

彼はAを見てちょっと困ったふうに眉をひそめ、厨房から出てくる。

ドアを開けたとき、その表情には、客に都合の悪い事実を伝えるときの丁寧さが貼り付けられていた。

彼はAのことを知らない。

同じ一年だけど、クラスは違う。

彼は王子だけど、Aは取り立てて何も無い一女子だ。

モブだ。

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