11 ページ31
・
｢これあれだよ！何だっけ…！｣
｢キュリー夫人！｣
｢そう！｣
夕食後、Aは家族全員とクイズ番組を見ていた。
毎日ではないがこうなる事は多い。
誰かがテレビを見ているうちに、遅れて帰ってきた他の家族が後から合流して結局全員になるパターンもある。
以前佳奈に話すと｢昭和か｣とツッコまれた。
Aも自覚はある。ウチの家族は仲が良い。
正解が『キュリー夫人』と出て姉がドヤ顔をする。
その時、テーブルに置いていたAのスマホが震えた。
手元に寄せて画面を見た瞬間____心臓がばくんと跳ねた。
『高橋海人 週末の件』
｢どうしたの？｣
妹が目敏く聞いてくる。
｢う、ううんっ？｣
咄嗟に画面を隠す。
｢顔、赤っ｣
姉が言ってきた。
｢えっ！？そ、そんなことないって｣
頬を押さえる。熱い。
ハッとなって周りから見ると、母、姉、妹が｢ほほう？｣というニヤけた笑いを浮かべていた。
Aは何だか耐えられなくなり、そそくさと立ち、
｢友達と話してくる！｣
リビングから脱出した。
｢ラブ臭がするわ！｣
｢階段の方からするわ！｣
母と姉の声を聞きながら階段を駆け上がる。
その途中でまたLINEの着信音が大きく鳴り｢もー！！｣と怒鳴りたくなった。
部屋に入りベッドにダイブ。
ドキドキしながら開く。
そこには待ち合わせの時間と場所が簡潔に書かれてあった。
____銀座。
その駅名になんとなく緊張した時、またメッセージが入ってきた。
『ドレスコードがあるのでそれなりの格好をしてくること』
いいお店に行くんだ。
Aの中で様々なケースや感情が渦巻き、海人のアイコンが恐らく自作のケーキで｢上手くできた｣というドヤオーラが滲んでいてむしろ可愛いという、どうでもいい逃避をしているうちに、はっと気づく。
____返事しなきゃ。
既読がついてしまってる。リアルタイムで受け取ってることは向こうも分かっているだろう。
急がないといけない。
Aは返信を打とうとして___硬直した。
どう返せばいいのか。
絵文字入れる？スタンプは？何も無し？『いいよ』的なスタンプだけとか、いやいやそれはどうだろう。
秒単位で過ぎる時間にAは焦る。
赤と青のどちらかの線を切る爆弾処理班のような心境だった。
枕に顔を埋め女子力とプライドの狭間で悶え苦しんだ末____Aはこう返信した。
『了解しました』
プライドが勝利した。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 34人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：にあ | 作成日時：2018年11月15日 16時
