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Aの脳裏に、過ぎ去った思い出が浮かび上がる。
従兄弟のお兄さんの結婚式。
家族や親戚の前で懸命に普段通りの振りをしつつ、新婦との馴れ初めのスライド写真に胸が痛くなった。
知らないところで、こんなふうにデートしていたんだって。
塾の合格祝い。
先生が洒落たパティスリーに連れて行ってくれた。紅茶の値段に驚いた。
二人きり。狭いテーブル越し。
ほのかな期待を抱いていたところに、しれっと彼女の存在が語られた。
だったらどうしてこんな思わせぶりなことをするんだと怒りを覚えつつ、とても悲しくなった。
けれど。
けれど、そのあとに____。
｢どうだ｣
海人が言ってくる。
｢うまいだろ｣
欠片も疑っていない、尊大なお言葉。
Aはもう一つ、食べる。
ふわりと温かい。
駅前の寒さを思い出す。
振られたショックで呆然とバス停に座っていたあの、鼻が痛くなるほどの寒さを。
それがこうして温められて。
嬉しくて。せつなくて。
涙が
あとからあとから、溢れてくる。もうすっかりガチ泣きだ。
｢……えへへ｣
呟き、海人を見上げる。頬に涙が伝う。
急に泣き出したことに、彼は少し戸惑っているふうだった。
どうして苺のケーキだったのか。
それは、話をきちんと聞いてくれたからだ。
苺ショートを追加で頼んだけど食べられなかった、という、何気ない一言を。
____私のために作ってくれた、私のためだけのケーキ。
Aは、ぱっと笑う。
｢泣くほど美味しいよ……！｣
すると彼はわずかに目を
｢当然だ｣
自信満々の、俺様笑顔。
でもそこには得意がる小学生のような純粋さもにじんでいて……Aの胸が一度、鳴った。
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作者名：にあ | 作成日時：2018年11月15日 16時
