第14話 ページ15
ただいまの声もかけられず自宅に上がる。俺が帰ってきた事に気がついた母ちゃんがただいまを言わなかった事について怒っている気がするが、耳に何も入ってこない。ぼんやりとしながら目線を床へと移していると母ちゃんの声がやけに鮮明に届いた。
「……あの子と何かあったのか?」
あの子。とはAのこと。母ちゃんがあの子と言うのはAくらいしかいない。何か。と問われればあった。
頬が急速に熱くなる。熱い。逆上せそうだ。
「シカダイ……?」
「……っ」
下唇を噛んで母ちゃんを無視するように部屋へと逃げ帰った。後ろで母ちゃんの呼ぶ声が聞こえたが、俺は今それどころでは無い。
あの後、意識を失ったAを家までおぶって運んだ。背中に伝わる柔らかいものに気付かぬように、意識しないように将棋のことを考えてAの窓の方へと送った。
その中にいたのはアカデミー時代、Aの姿を真似て……確か、ミラーとか言う奴がAのフリをしていた。
『酷い熱がある』
『っ、ありがとうございますシカダイ様』
Aを受け取るとミラーが暫く付き添い、人の気配がした後にカードに戻って行った。ミラーがカードに戻ったのを見届け、人が来る前にAの家から離れた。
Aと会ったのはたまたまだ。別れてすぐに母ちゃんに修行をサボろうとしていることがバレて、いのじんの元へと向かわされた。その帰りに一人で歩いていたらフラフラのAを見つけた。
何とかAを家まで送り届けようとしたのだが、途中でAが意識を失いそのまま俺の元へと倒れ込んだ。
その時Aを支えようとしたら、Aの唇と自分の唇が重なりAが俺の肩に頭を預けた。
「くそっ」
一瞬、理解ができなかった。離れていく唇に、肩に置かれた頭に、漸く理解したのだ。事故とはいえ口付けたのだと。
あれは事故だと言い聞かせるように、思考を巡らせてるが上手くいかない。薄くて小さくて柔らかい唇の感触が離れない。
「あれは事故だ……」
何度も口に出して呟くが、その度にあの感触を思い出してしまう。目を閉じても口に出さなくても。こんなに思考があいつで埋め尽くされることなんてないのに。
好きな人。好いた女だからこそ、感触を忘れられない。高熱で魘されているあいつはきっと気づかないだろう。俺が一人で苦しむだけだ。
「ッ……」
覚悟しろと言った矢先に自分がやられるとは思っていなかった。
「勘弁しろよ……」
どうしてくれる。この気持ち。
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レナ - こんばんは、体調は大丈夫ですか?更新頑張ってください! (5月3日 19時) (レス) id: 9d52581983 (このIDを非表示/違反報告)
清水ファンタジア(プロフ) - レナさん» 嬉しいです、ありがとうございます!!更新頑張ります! (3月8日 22時) (レス) id: 37ed0d3f16 (このIDを非表示/違反報告)
レナ - 更新ありがとうございます!これからもこの作品を楽しく読んでいきます、お疲れ様でした! (3月8日 22時) (レス) @page24 id: 9d52581983 (このIDを非表示/違反報告)
清水ファンタジア(プロフ) - レナさん» 心配をおかけして申し訳ないです……。遅くなりましたが更新させていただきました!楽しみに待っていただき本当にありがとうございます! (3月8日 22時) (レス) id: 37ed0d3f16 (このIDを非表示/違反報告)
清水ファンタジア(プロフ) - ユキさん» 遅くなってすみません!更新させていただきました!楽しみにしていてくれてありがとうございます! (3月8日 22時) (レス) id: 37ed0d3f16 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:清水ファンタジア | 作成日時:2023年3月31日 18時