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胎児よ
胎児よ
何故躍る
母親の心がわかって
おそろしいのか
『ドグラ・マグラ』夢野久作
私は恍惚とさせられるこんな33文字から始まる小説が好きだった。
三大奇書と呼ばれるこの小説。
物好きなメンバーは精神に異常をきたしたか、と聞いてくる。
そんなの知らないわよ。
元から私の精神なんてとち狂ってるんだから。
まあ、私からしたら平然と他人の命を奪うあなたたちの方が精神に異常をきたしてるわね。
なんて心で悪態をつきながらサラリと受け交わす。
読む度読む度、どうしても自らと重ね合わさざるをえない。
自分の望まないところに押し込められ、自由や自らの存在を問う…。
でもそんなことしても私が組織の一員だということは変わりない。
ましてただの人形で。
私は本を閉じた。
今日は私の大切な日。
この真っ黒に染まった通称「鳥籠」から逃げ出すのだ。
上手くいくかも分からない。
見つかってしまえばいくらマムのお気に入りと言えど、間違いなくこんな場所にすら二度と帰って来れないだろう。
それでも私は一抹の希望にかける。
これがこの辛さから解放される術ならば私はなんだってしよう。
壁一面の本棚。
この部屋に似つかわしくない最新のパソコン。
私を閉じ込めるための大きな扉。
そんな殺風景な部屋の厳重なロックはもう外した。
外からよりも中からの方が外しにくいロックなんて他にないだろう。
もちろん外からも幹部以外は外せないけれど。
音を立てないようにそっと立ち上がり、本を戻す。
そして空いた手に金色のナイフを滑り込ませた。
ナイフに埋め込まれた妖しく光る緑色の石。
ほとんど使っていないことを示す美しい刃には英語で「レイラ」と彫られている。
おそらくこれが私の名前。
本物の母親の顔も見た事なく、生まれた時から組織にいる私には関係ないことだった。
しかしここから出ればこの名前は大切になるだろう。
レイラ。私はレイラ。
そう自らに言い聞かせて、常に太腿につけている収納ケースにそっと入れた。
そして重い扉をゆっくりと押す。
今日は誰もこの建物にはいない。
それはマムに聞いたから確実だ。
私は振り返り、長い間をすごした部屋に向き合った。
嫌な思い出ばかりでも部屋に罪はない。
感謝しなければ。
軽く頭を下げる。
そして静かに扉を閉め、私は鳥籠から逃げ出した。
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作者名:咲夜 | 作成日時:2020年8月11日 15時