君の隣で。【短編集】 (ページ2)

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桜ひらり＊日本ページ2

桜は人を魅了させる力があるのだろうか。
だってそうだろう。
桜が咲けば、日本人は春だと喜ぶ。花見だってする。
日本人は桜が好きだ。

そして、桜は儚いものである。
花が咲いたかと思えばすぐに散ってしまう。
雨が降った次の日には、地面にその花弁が落ちていて、泥がついていたり、昨日まで木で輝いていたのか疑いたくなるほど。

そんな桜であるが、散ってもなお美しい。
たとえ花弁が泥で汚れていても。

「私も、桜のように散りたいですわ」

「おや、いきなりどうされましたか？」

ぽつりと独り言のつもりで呟いたのだが、それを聞き逃さない我が祖国。
祖国……ここでは日本、と言った方が分かりやすいだろうか。
彼は名前の通り国である。人の姿をしているものの、私たちのような人間とは違った存在。
国そのものなのだ。…と言っても、難しいことかもしれないが。

「桜は散っても美しいです。私も、桜のように死んでも美しくいたいですから」

「そんなことを言わなくても、貴方はずっと美しいと爺は思いますよ」

「まぁ！お世辞でも嬉しいですわ」

「ふふふ、お世辞ではないですよ。本当のことを言っただけです」

桜と同じように、人間もいつか消えてしまうもの。
どう足掻いても、それは変えられない事実。
ならば私は、せめて桜のように散りたいと願う。美しいままで。
誰に見られても恥ずかしくないように。

「祖国様は死にませんものね」

「まぁ、そうですね。でも、国が滅びてしまうと私自身も消えてしまいます」

人間はいつか死ぬ。でも彼のような国たちは死なない。
現に祖国だって、私よりも何千年も長く生きている。
悲しいことや、辛いことを乗り越えて、今ここにいる。
そう考えると、こうして彼と話せていることは奇跡に近いのではないだろうか。

「祖国様、私がいなくなっても、ずっと覚えていてくださいね？」

小さな…少しでも物音を立てると、聞こえなくなってしまいそうな、そんな声で祖国に話しかける。
そっと右手の小指を差し出して。
祖国はそれを見て、静かに微笑み、こう言った。

「勿論です。ずっと忘れませんから」

差し出した小指に自らの指を絡めて。
祖国の指から私の指に、彼の体温が伝わる。
それだけのことなのに、何故か心が温まった。