特級呪術師から逃げれるはずがなかった

拾壱話目 ページ13

「私、貴方のことは………嫌いじゃありません。少し怖いですけど」


そう言って困ったように彼女は微笑んだ。


前みたいに、笑ってくれた。

それだけでどうしようもなく嬉しくなってることに気づいた。



押し倒していた彼女からどいて、2,3歩離れたところでまたしゃがみこむ。

右手で額を抑える。頬が緩んでいるのがわかった。


「弱ったなぁ………」


怒りがどんどん鎮火していく。
一生自分の元に縛り付けてやろうと思ったのに、そんなことをするのが途端馬鹿らしくなってきた。

怯えさせるよりも、笑わせてやりたい

そっちに感情が揺れ動いた。


「僕も嫌いじゃないよ。君のこと」


なんとも思ってなかったはずなのに。

ただの形だけの婚約者で、逃げられたのに腹立って追いかけて、見つけたけど捕まえるのを保留にして、それでもやっぱり逃げられて、今度こそ捕まえて。

そこにあるのは苛立ちだけだと思ってたけど。



──なんだ。親愛の情もちゃんとあったじゃん



彼女を苛立ちという感情だけで拘束させるのはさすがに良心が痛む。でも、そこにはちゃんと親愛もある。彼女に対する愛情がちゃんと僕にはある。





彼女に執着する大義名分が僕の中にはちゃんとある。



「結婚しよう。順番がおかしいとかどーでもいい。俺、君が欲しくなっちゃった」
「………ん？」
「大丈夫。別に襲ったりしないから。“今はまだ”ね」
「……ん"ん"ｯ？」
「僕がちゃんと守ってあげる。だから安心して、Aちゃん♡」
「…」

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