【APH】空模様、恋模様。【短編集】 (ページ30)

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ほんとにずるい(西)【学パロ】ページ30

｢おはようさん｣
玄関を開けると立っていたのは、ほっぺたをまっかにしたアントーニョくんだった。厚手の暖かそうなマフラーとコートを着込んでなお、寒そうに身を縮めている。
｢わざわざ遠回りしてまで来なくても良かったんだよ?寒かったでしょ｣
｢ええんよ、彼女を迎えに来るんも彼氏の務めやろ?｣
｢もう……うふふ｣
冬でも雪の降らない南欧出身で寒さにはめっぽう弱いだろうに、こうしていつも登校前に迎えに来てくれるのだ。愛されているなあと実感できてじわりと胸が暖かくなる。
｢それに朝イチでAに会えるんは嬉しいし、なんか恋人って感じするやん｣
彼はにかっと白い歯を見せて笑って、それから自然な手つきで私の手を取り指を絡めてきゅうと握ってきた。途端に私の顔に熱が集まっていくのがわかる。ああもう、こういうなんでもないようにさらっと恥ずかしいことをできちゃう彼は本当にずるいと思う。

｢さむ……｣
学校の最寄り駅で電車を降り外へ出るなり、彼は体をぶるりと震わせた。暖房の効いた車内との寒暖差は意外に堪えるのはわかるが、ちょっと大袈裟に見えて思わずくすりと笑みが零れる。
｢笑わんといてー!寒すぎやろこんなん!｣
｢そうだねえ、ちょっと寒いかも｣
笑ったまま小さく頷いて肯定すると、彼はせやろ?と口をとがらせる。かと思うと、ぱっと顔をあげていたずらっ子みたいに目を輝かせた。
｢せやから親分のこと、あっためてたって?｣
言うが早いか彼はそのままぎゅうっと私を抱きしめる。腕を背中に回されて身動きが取れない。
｢あ、アントーニョくん!?｣
｢はあ……あったかいわあ……｣
幸せそうに頬を擦り寄せてくる様は猫みたいですごく可愛らしいが仕草に似合わぬ男らしく整った顔が近くにあるしで心臓がうるさい。コート越しに彼の匂いと体温に包まれて、落ち着くようなときめくような感覚で頭がふわふわする。
｢A?どないしたん?顔赤いで?｣
気がつくと既に離れていた彼は、私をニヤニヤと眺めていた。わかってるくせにとぼけた振りして、本当にこの人はずるい。
｢誰のせいだと思ってるの……｣
｢はは、トマトみたいで可愛ええなあ｣
ほら、こうして何食わぬ顔で更に照れてしまうようなことを言うのだ。ああもう、全くもって本当に。
｢ずるい｣
｢やけど、そういうとこも好きやろ?｣
多分彼に勝てる日なんて一生来ないし、これからもこうして赤面させられっぱなしなのだろう。せめてもの反撃に繋がれた手を潰す勢いで握りしめてやった。