【APH】空模様、恋模様。【短編集】 (ページ24)

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独立④（英）ページ24

あくまで冷静に、けれど言いたいことは言わなくちゃと言葉を紡ぐ。上ずって震えた情けない声は、誰に拾われるでもなく冷たいタイル張りの床に落ちた。見据えた先のお兄ちゃんはふらふらと力なく椅子に座わってうなだれてしまう。どうやら多少は冷静になってくれたらしくて、私はほっと息を吐いた。窓越しに聞こえる音が大きくなっている。どうやら雨脚が強まったらしい。
「俺は」
お兄ちゃんが静かに静かに口を開いたが、かすれた声は注意して聞かなければ雨音にかき消されてしまいそうだった。
｢あいつが嫌いだ。キザで、女たらしで、不真面目で、変態で。それが俺の主観ってこともわかってる。こんなこと、お前のためを思うなら言っちゃいけねえってわかってる。でも、｣
少し言いよどんで、それから決心したようにお兄ちゃんは続けた。懇願するような声だった。
｢アイツに、可愛い妹をやりたくねえんだ。行かないでくれ、A｣
細い声。こんなお兄ちゃんの声を聞いたことが1度だけ、たった一度だけあった。アル兄が家を出ていってしまった時だ。雨が去った後の抜けるような青空を窓越しに眺めながらマシュー兄さんと一緒にアーサーお兄ちゃんを看病したことを、私はよく覚えている。熱に浮かされながら震える頼りない声でひたすらにアル兄の名を呼んで、虚空に赤くなった手を力なく伸ばしていた。見ていられなかった。思わずぎゅっと冷えた手でお兄ちゃんの熱い手を握ると、少しだけ表情を緩めて、それから今みたいにすがるような声で私とマシュー兄さんの名を呼んだのだ。私は泣いた。マシュー兄さんも、アーサーお兄ちゃんも泣いていた。あの時、お兄ちゃんのそばにいようと強く強く誓ったのだ。誓った、はずなのに。赦されないから、ごめんなさいとは、言えなかった。

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