【APH】空模様、恋模様。【短編集】 (ページ19)

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あかずきんとおおかみ④（露）【童話パロ】ページ19

「ふふ、うれしいなあ。でも……僕は一緒に行けないよ」
イヴァンはさみしそうに眉を下げて微笑んで、そのままあなたを送り出そうとします。すみれ色の瞳はそらされ、目が合うことはありません。その表情が儚げでどうにも放っておけなくなった貴女は思わず聞いてしまいます。
「どうして？おばあさまもきっとお喜びになるわ」
「だめなんだ、どうしても」
彼は苦しそうにぎゅっと目を閉じてうつむいてしまいました。何か言おうとしているようで時々小さく唇を動かします。どうやら決心ができないようです。ざああと木々を揺らしながら、二人の間を風が駆けていく音がよく聞こえます。
「おおかみ、だから」
しばらく沈黙したのち、彼は絞り出すように一言だけいいました。そして震える手で帽子を取り去ります。そこには、おおよそ人間には似つかわしくない大きな獣の耳がありました。にわかには信じられない貴女でしたが、実際に見せられては納得せざるを得ません。彼こそが、お母さんの言ったおおかみだったのです！驚きで声が出なくなる貴女でしたが、不思議と恐怖心は湧いては来ませんでした。
「こわい、よね。そうだよね。さっきまでお友達でも、僕がおおかみだって分かると、皆僕から逃げるんだ」
何も言えないままの貴女を冷ややかな目でちらりと見やったイヴァンは、くるりと踵を返して向こうの木々の方へと歩いて行ってしまいます。貴女は思わず手を伸ばして、その腕をコート越しにしっかりと握りました。驚いてばっと振り返るイヴァンの朝焼けみたいな瞳にしっかり目を合わせて、貴女は口を開きます。
「怖くないわ」
「ほん、とうに……？本当に言ってるの……？」
信じられないというように目を見開いて立ち尽くすイヴァンに、貴女は優しく声を掛けます。
「だって、イヴァンは私にひどいことしなかったもの。やさしくって、あったかくって」
それでも酷く不安げに揺れる藤色をまっすぐみつめて、貴女は彼に歩み寄ります。そして彼の分厚い革の手袋に手をやってするりと脱がせると、鋭い爪を恐れることなくぎゅっと彼の大きな手を握りました。
「私、おおかみでも人間でもなく、イヴァンがすき」
イヴァンが小さく息をのんだ音が聞こえると同時に、彼のまんまるい目からはらはらと水晶のような涙がこぼれていきます。静かに涙を流す彼をそっと抱きしめると、イヴァンは貴女の肩に顔をうずめたまま小さく小さく、ありがとう、と言いました。

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