【APH】空模様、恋模様。【短編集】 (ページ16)

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あかずきんとおおかみ①（露）【童話パロ】ページ16

Aちゃん。
ここにぶどう酒とパンがあるでしょう？これをおばあさまのおうちに持っていってちょうだいね。おばあさまは病気なの。森の奥におひとりですんでいらっしゃるからね、お薬と一緒にこれをもっていってあげてね。森の奥は少し薄暗いから、お日様が高いうちにいくのよ。
それから、いいこと？
寄り道せずにまっすぐいくのよ。途中でおおかみさんに声をかけられても、ついていっちゃだめですからね。
もちろんわかってるわ、おかあさん。私、ちゃんと言いつけは守るいい子だもの！
貴女は小さなバスケットを手にとると、赤いビロードの頭巾をかぶって意気揚々と出かけていきました。
ですが、一人でおばあさまの家へ行くのは初めての赤ずきん。森の中を記憶を頼りに歩いていきましたが……
「どうしよう、迷子になっちゃった……」
町はずれのこの森は高い木に日差しが阻まれ、昼でも薄暗い場所です。怖くなった貴女は恐怖をまぎらわすように、足を前へ前へと進めていきました。

「わあ……！」
道なりにしばらく歩くと開けた場所に出ました。一面に色とりどりの花々が咲き誇り、穏やかな日差しの照らす花畑です。お母さんと一緒に来るときには、一度だって来たことのない場所です。
「こんな素敵なところ、はじめてきた」
こんなにきれいな場所なのだから、少しくらい休んだって罰は当たらないわ。歩き疲れた貴女は休憩がてら少し遊んでいくことにしました。花畑にふみいると、遠くで眺めるよりもいっそう甘く良い香りがします。貴女が小さな手を伸ばせば、花は簡単に手折ることができるでしょう。そうだ、花冠を作ろうと思い立っていくつか摘み取っていると、どこかから控えめな声が聞こえてきます。どうやら誰かが後ろから声をかけてきたようでした。
「こんにちは、いいお天気だね」
急に声をかけられて、反射的にひゅっと息をのみます。高くやわらかいもののしっかりと男性らしくざらついた音を含むその声に、貴女は覚えがありませんでした。どうしよう、知らない人だわ。固まったまま動けなくなった貴女の背中越しに、非難がましい声が飛んできました。
「……ひどいなあ、お返事くらいしてくれたっていいじゃない」

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