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顔を腕の中に埋めて、彼の名前を呼んだ。「なに?」と淡白な返事が返ってくる。
「死.ぬの怖くないの…?」
「怖いよ。すげぇ怖い」
「だよね、怖いよね…」
震える手を無理やり押さえ込んで私は顔を上げた。意識しなくても流れ落ちるそれを拭って、彼に問いかける。
*
「私ね、すごく怖い。亮平や兄さんを置いて、死.にたくないなって。まだまだやりたいこといっぱいあるのに。こう思うのってイケナイ事なのかな」
この数分の間で彼女の印象がだいぶ変わった。
穏やかで誰にも優しく、冷静に物事を判断できるそんな女性だと思っていた。
けど実際は、大好きな人を守りたい。1人のか弱い女の子。こんなゲームに無理やり参加させられて怖くないって言える方がおかしい。
「イケナイ事なんかじゃないよ。自分の命を懸けてるんだ。怖いと思うのは普通のことだよ」
「そう…なのかな…」
「そうだよ。俺だって、すげぇ怖い。蓮を置いて死.にたくない」
もう俺には蓮しか家族がいない。
父さんも義母も2人とも事故で一変に死んでしまった。あの時のとことは、思い出すだけでも胸が苦しくなる。
だから蓮にあんな想いは絶対にさせたくない。
「そっか…。そうだよね。死.にたくないよね」
「うん…」
「私たち、なんか似てるね。大切な人を守りたいって所が」
「それ俺も思ってた。案外、俺たち似たもの同士なのかもな」
「だね」と、涙を拭って彼女は優しく微笑んだ。俺もそれに今できる自分の笑顔で返す。これからどちらか一方は死んでしまう。そんなゲームに参加するのに俺らの周りには、和やかな柔らかい空気が流れていた。
「照くん。友達になろうよ」
「なに急に笑」
「いいじゃん!私、異性の友達欲しかったんだよね!」
小さい子供みたいに無邪気に笑って、俺の前に手を出す。今度はその手をしっかり掴み、握手を交わした。彼女は目を細め、満足気な表情を浮かべる。
「よろしくね。照くん」
「こちらこそ、よろしく。A」
初めて出来た異性の友達。
こんな感情はとても久しぶりだ。
ふわふわと心地よい感覚に包まれている。
この時ばかりは、殺伐としたゲームのことを忘れて普通の18歳の自分として入れることが出来た。
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