イキルコト～生まれた理由～黒木 (ページ6)

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＊菜の花との夢ページ6

立ちくらみに、似た感覚のあと目が覚める。
ここは...。分からない。
見知らぬ土地だった。どこまでも、遠く遠く、草原が続いているようだった。しかし、色はなかった。モノクロの世界でしかなかった。

こおんこおん

硝子(ガラス)を響かせたような音が届く。が、すぐに消えて聞こえなくなる。
池に貼られた薄い氷のような忘却がいまだに溶けない。心にぴったり張り付き、何をしても無駄だった。
(俺は、なんで生まれてきたのかね)
なんども繰り返した自問自答。
答えは見つからない。
(生まれてこなくても...)
そのあとの言葉を飲み込む。ああ、神様はなんて意地悪なのだろうか。理不尽すぎる。
黒木君、黒木君。
聞き慣れた、よく通る声が聞こえる。しかし、刹那のごとく、かすれて消える。
「黒木君！」
その、声とともに、色を載せるように花が咲く。
「アーヤ、」
名前を呼ぶことしかできない。アーヤは小走りで、俺のそばに来る。
「約束守りに来たよ」
アーヤはそう言い、俺の手を取る。
「どう、して」
思わず疑問の台詞が出る。案外、素直じゃないらしい。
「どうしてって、黒木君が来てって言ったんだよ」
足元に咲いている菜の花が揺れている。空には星が確かに輝いている。
「みんな心配してるよ。もちろん私も。帰ろう」
アーヤは俺の腕をぐいっと引っ張る。
「絶対に振り返らないから、安心して」
その笑顔は春の陽だまりのように暖かかった。
帰り道はどこか不安に急ぐ道だった。フェンス越しにはいつも長い影が映っていた。今まではただの強がりでしかなかった。
俺がこの世界に生まれてきたのは、君に出会うためと言ったら飾りすぎだろうか。でも、そう願いたい、そうでありたい。
「生きててよかった。生まれて来てよかった」
菜の花はその言葉を胸に刻みつけた。