18 : 上弦、襲来。8 ページ19
side 時透無一郎
鼻と口がようやく空気に触れたのを理解し、反射的にそれを思いきり吸えば、逆に咳込んでしまう。
肺にまで水が入ったからだろう。
必死で呼吸を繰り返しても、胸が苦しいというよりむしろ、痛みすら感じた。
「時透さん!」
刺さったままだった針を抜き、這うように近づいたそこには、泣きながら僕を呼ぶ小鉄くんと。
うずくまって動かない、あの女の子。
Aさん、と小鉄くんに呼ばれているこの子を、僕は。
__________知っている?
その途端。
溢れ出すように流れ込むように、頭の中を占めていく記憶。
そうだ、これは僕の。
十の頃、亡くなってしまった両親。
山深くの家に住まっていた僕と、見た目だけは良く似たもう一人_______双子の兄。
ある日、お館様のお内儀がわざわざ山を訪ねて来られ、「鬼殺隊」へ誘われたこと。
それを兄に反対されたこと。
そしてあの夏。
ひどくうだる暑い夜、子供二人だけの住まいへ現れたのは鬼だった。
兄は。
たった一人の肉親だった片割れは、それに。
(思い出した、全部)
少しずつ、鮮明になっていく頭。
霞が晴れるように。
急いで袴の裾を破り、女の子の肩をきつく縛って止血する。
出血はひどかった。
立ち上がれないのは、貧血のせいだろう。
それでも、女の子は顔を上げ。
『霞柱さま………私のことはいいから………鋼鐵塚さんと、鉄穴森さんを助けて………刀を………守って……』
途切れ途切れに、でも強い光を宿した瞳で、そんなことを訴える。
………うん、大丈夫。
大丈夫だよ。
「皆、僕が守るから」
ひんやりした手を強く握って短く伝えれば、女の子は小さく頷いたように見えた。
そのまま傍らの小鉄くんへ、視線を滑らせる。
「小鉄くん、この子は今は動かさないで。鬼は僕がここに来させない。君は付いていてあげて」
「う、うんっ……!」
時透さんありがとう、と震える声で押し出した小鉄くんの頭を一撫でし、立ち上がる。
__________確固たる自分を取り戻した時、君はもっと強くなれる
はい、お館様。
__________お前は自分ではない誰かのために無限の力を出せる、選ばれた人間なんだ
うん、わかったよ。
___________兄さん。
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ひよ(プロフ) - メメさん» メメ様、はじめまして!完結からだいぶ経っている作品にコメント頂き、本当にありがとうございます😭 嬉しかったです!現世編の方ではもっと青春してますので、宜しければそちらも是非♥ (4月27日 13時) (レス) id: 03402cf4a3 (このIDを非表示/違反報告)
メメ - 良すぎます!なんかもう、わー青春だねーって感じします。最後の方。 (4月26日 13時) (レス) @page48 id: 7b4a5b0ad7 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - 優衣さん» 優衣さま、はじめまして!コメントありがとうございます、すっごく嬉しかったです♥️ 原作軸は原作の結末通りに書きたい派なので、、現代転生後のハピエンとしました…! (7月30日 21時) (レス) id: 03402cf4a3 (このIDを非表示/違反報告)
優衣 - 無一郎が夢主ちゃんのお面を「オカメ」と言っていたのが面白かったです❗夢主ちゃんと無一郎が現代で幸せになれる事を願います❗ (7月30日 16時) (レス) @page50 id: fa32b0552b (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - さざんかさん» さざんか様、はじめまして!コメありがとうございました! 読んで頂いた上、、嬉し過ぎるお言葉を頂き、こちらこそ感謝感激です(泣) 鬼殺隊の面々には、現世では何でもない幸せを堪能して欲しい…!という願望のラストでした。気に入って頂けて良かったです(泣) (6月6日 12時) (レス) id: 03402cf4a3 (このIDを非表示/違反報告)
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