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一緒にのんびりと買い物に行って、夕飯は「牛鍋」にして。
「匡近の好物でなァ」『ごめん知ってる』なんて会話をしながら笑って、たくさんたくさんそれを食べた夜。
「まだ寝ねェのかァ?」
お風呂から上がったらしい実弥さんが、銀の髪を無造作に拭きながらリビングへと姿を見せた。
そのまま冷蔵庫へと向かい、「水貰うぞォ」とペットボトルを取り出す。
一連の動作はすっかり、現代に生きる人のようで。
心ここにあらずで眺めていたテレビ画面から、壁掛け時計へと視線を移せば。
『あー……11時前だし。 明日も仕事休みだから』
まだいいかな、と笑った私に、実弥さんは何か言いたげな顔をした。
そこにあるせつない色には敢えて、気づかないふりで。ずっと続けてきたように。
『それにほら、もうちょっとで日付けも変わるし、』
「……A、」
『29日になった瞬間にお祝いしたいじゃん? 大好きな人の誕生日はやっぱさ、』
「A」
いつも以上に饒舌になりかけた私をやんわりと、宥めようとするかの如く。
その低い声は、私を呼ぶ。
そうしてソファの右隣が、ゆっくりと沈み____
『こっち向けや、A』
『…………無理』
笑えないからさ、多分。いつものようには。
急に怖くなったんだ。
今から1時間後に起こるかもしれないことを、想像したら。
怖くて怖くてたまらない。
この人が私の世界から再び、居なくなってしまうかもしれない_____明日が。
『実弥さんは、怖くないの……?』
ああ、私はなんて馬鹿なことを。
「あの物語の世界」を懸命に生きたこの人が、そんなこと思うわけ____
「……全くもって怖かねェ、っつったら……」
嘘にはなるが、と。
ひとつ小さく笑って。
「悔いてはねェよ。何が起こっても」
うん、だよね。わかってる。
___自分のことが不幸だなんて、思ったことは一度もない___
風柱は確かに最後、そう言っていたんだから。
私みたいに平和ボケしたこの世界の人間が、そんな人に出来ることなんて何も。
何も無いと、いうのに。
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ひよ(プロフ) - ツナミカワさん» ツナミカワ様、はじめまして!完結からだいぶ経っているこんな作品にコメントを頂き、本当にありがとうございます(泣) 個人的にはバドエンも嫌いではないのですが←、現世での救済はできればしたいと考えて書いています…!また何かのお話でお会いできれば光栄です♥ (3月2日 9時) (レス) id: 03402cf4a3 (このIDを非表示/違反報告)
ツナミカワ(プロフ) - バッドエンドになりそうで泣いてたのにそこからハッピーエンドで好きって言われたら泣かずにはいられなかった (3月1日 18時) (レス) @page45 id: 8933f39901 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - ☆雪☆さん» アニメ柱稽古編の発表もありましたし、また何かネタが浮かびましたら実弥さんも書きたい気持ちはあります。その際もし見つけて頂ければ、またお会いしたく。ありがとうございました♥ (12月11日 21時) (レス) id: 03402cf4a3 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - ☆雪☆さん» ☆雪☆さま、はじめまして!こんな完結済の話に、恐縮してしまうほど光栄なコメントを本当にありがとうございます!(泣) 今年の実弥さんの生誕も、「アラカルト短編集」という作品の中でお祝いしておりますので、お暇時間にでも覗いてやって下さい…! (12月11日 21時) (レス) id: 03402cf4a3 (このIDを非表示/違反報告)
☆雪☆(プロフ) - 他の作品も色々と読ませて頂いて、ひよさんの描く実弥さんが好きで楽しく読ませて頂いてます。またこれからも読ませて頂きますね。 (12月11日 18時) (レス) id: dd2cbdffb8 (このIDを非表示/違反報告)
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