《後編》改）言えない師範と言わない継子【不死川実弥】

45 : 好きになる気持ちなど ページ6

side 胡蝶しのぶ






私への舌打ちの後。

不死川さんは大きくひとつ、息を吐いた。



「………オレらは鬼殺隊だ。鬼を滅することが………人生最大の目標、だろォ」



それに、と続けた不死川さんの瞳には、悲し気な色があるようにも見える。



「互いに今日、明日死ぬかもしれねェ身で………恋だの愛だの言えっかよ」



ふい、とこちらから視線を背け、窓の外を見やる。


まさかここまで、その本音が聞けるとは思わなかったから。



「………まあ、おっしゃることはわかります。正直私も、恋だの愛だのにあまり興味はありませんし」



自分の本音も多少は、漏らそうかと。


姉と両親を私から奪った鬼を滅する以外に、今の私が望むものなどない。



「ただそれは今、そういう意味での好意を持つお相手が居ないからだとも思っています。でも不死川さんは………………違うのでは？」


「…………」


「人を好きになる気持ちなど、制御出来るものではないのでしょう。鬼殺隊士とて、誰かに自然と惹かれるのは…………致し方のないことかと」



そう思いません？と同意を求めた私に、不死川さんはまた、小さく舌打ちをする。



「3つも下のお前から、ンな説教くらうとはなァ………ったく胡蝶姉妹は、お節介っつうか」



私が笑いながら差し出した袋を受け取り、ありがとなァ、と不死川さんは診察室を出て行く。





(………いつ死ぬかしれない身だから言えない、か)





不死川さんはもう十分、わかっているのだろう。

自身の想いも、Aさんのそれすらも。





2人のこの先を、見守りたいと思う。


命を預け合う鬼殺隊の同志としてだけではなく、純粋に、Aさんの友人の1人として。




色とりどりの花で溢れる庭を歩いて行く銀色が、陽の光に煌めくのを見つめながら。


私はそんなことを、考えていた。



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