《後編》改）言えない師範と言わない継子【不死川実弥】

80 : 平和な夜に　 ページ41

・






「お、こりゃド派手にうめえ！」



元・鬼殺隊の皆が集まってくれた祝言は、本当に幸せな一日となった。


隣に立つ紋付袴姿の＿＿＿＿もう何年も焦がれ続けた彼を何度も盗み見ては、頬をつねってみたりして。



祝言など形だけで十分と思っていたけれど、その日一日、たくさんの祝福の言葉を皆から掛けてもらい。


「身に余る」という言葉はきっと、こういう時に使うんだろうなと。


滲んでしまう視界のまま、ぼんやり考えていた。










新婚旅行なるものを試してみよう、と言い出したのは、意外にも実弥さんだった。


これまで遠出といえばもちろん任務ばかり、旅になんて出たことはなかったから、その提案には即乗ったというワケだ。



大好きな人と一緒に、時間も気にせずゆっくり過ごせるその旅は当然、楽しいに決まっていて。



だから今夜は、はしゃいでつい買い込んだお土産を振る舞うという名目で、宇髄さんと冨岡さんを屋敷に招待したのだった。



「本当に美味い」


『良かったー、たくさん召し上がって下さい。私、すごい欲張っちゃって』



あははは、と笑えば、すぐ隣からは呆れた色の声。



「………ったくコイツ、旅先でさんざ飲み食いしといて、あれも買うこれも買う、ってよォ」



フン、と鼻を鳴らしながらも、冨岡さんにお酒を注いであげてる実弥さん。

仲良き事は美しき哉。



「新婚旅行とやらは楽しかったかー？」


『はい、すっごく! やっぱり任務で行くのとは違いますよね』



そんな私の感想に、冨岡さんも苦笑しながら頷いた。



「だろうな………任務では周りの景色を眺めるのすら、難しかった」


「しかも行くんは大抵、夜だしなァ」



実弥さんの結論に、確かにと全員で笑う。

鬼殺隊あるある……………………活動時間は主に夜。



「いいよなあ、旅は。オレらもこの前、温泉行ってきたぜ？ な、冨岡」



大好物と聞いて作っておいた鮭大根を頬張りながら頷いた冨岡さんに、実弥さんと私は驚いて声を上げた。

宇髄さんは、思い出し笑いをしながら説明する。



「試しに誘ったら付いてきてよー………ハハ、混浴だったから、コイツ隅でちっさくなってたけど」


『え、混浴って………雛鶴さん達も一緒に？』



おうよ、と答え杯を干した宇髄さんにお酒を注ぎながら、それをつい想像して、大きな声で笑ってしまった。



・

81 : 出来なかったことをしよう→←79 : 幸せだと言うのなら

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す