《後編》改）言えない師範と言わない継子【不死川実弥】

58 : あなたが知っている ページ19

side 不死川玄弥






「……Aさんは………兄貴から、何か聞いてるんすか……？」



おずおずとそう尋ねたオレに、Aさんは黙って首を左右に振った。


その顔は少し悲し気で、でもどこか優しくて。

母ちゃんを思い出させるような。



『鬼殺隊士には皆、何かしらの事情があるよね。………他人には言いにくいようなことも含めて』


「………はい」


『あなたにも師範にも昔、何かはあったんでしょう。それにまつわる話から、ああいうことになったのかな、って………想像はしてる』



そこでAさんは、俯きがちだった顔を上げる。



『………あなたに会いに来たのも、お節介なの。でもわかってる人はいるよ、って伝えたくて』


「………何を、すか……？」



向けられた笑顔は決して、作り物なんかじゃなく。



『師範は優しい人だよね。周りからは誤解されがちだけど………私はいつも、あの優しさに救われてる』



………………ああ。



(この人は、これをオレに言うために)



そうなんだ。


兄ちゃんは本当に優しい人だから、あの夜だって。

オレ達を必死に守ろうとして。



(なのにオレは)



ぐ、と拳を握ったオレを、Aさんはしばらく見つめてから、口を開く。



『………でもそんなことは、弟のあなたが1番良く知ってると思う』


「は、はい！ それはもちろんっ……」



勢いこんでそう答えれば、何度も頷かれ。



『………だからこそ………きっと何かそこに、想いや理由があるんじゃないかな、って』


「……」


『これ以上勝手な推測をするのは、師範に失礼だと思うから………でも今の師範の、物理的にでも傍にいる私は………お人柄を、わかってるつもり』



だから少しだけ安心して？と続け、Aさんはにっこりと笑う。


明るい笑顔。

こんな風に笑う人が今、兄ちゃんの傍に居てくれている。



「……Aさんは………兄貴の、その……」



さっきは継子と名乗った。

でもこの短い会話の中、この人の兄ちゃんへの想いというのは……………オレでも。



(………それだけじゃ、ねえって)


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