《前編》改）言えない師範と言わない継子【不死川実弥】

32 : 我、奇襲成功せり　 ページ33

side 伊黒小芭内






次に蝶屋敷を訪れることが出来たのは、3日後の警備明けだった。


甘露寺と待ち合わせをして朝食を済ませ、揃って病室へと向かう。



Aが意識不明の重体、という一報を受けた甘露寺もあの日、俺と入れ違いに駆けつけたらしい。


仲の良い親友のそのような状態に、いつもよりずっと食欲が落ちている甘露寺のことも、もちろん心配ではあるのだが。



「………おォ、来てくれたンかァ」


「何という酷い面をしている。休める時は休めと言ったはずだが」



休んでら、とぼやく不死川の顔色は優れない。


本来は休息を取るべき日中もAに付きっきりであるならば、疲労が溜まるのは当然だろう。

隣の寝台の布団が多少乱れているところを見ると、横にはなっているようだが。



「俺達がいる間は、せめて身体だけでも横たえるといい」



ぐい、と腕をとって促せば、案外素直に寝台へと移ったから。

次の瞬間、その首元に素早く手刀を入れる。



………………我、奇襲成功せり。



「えっ! い、伊黒さんっ?!」


「案ずるな甘露寺。気絶も、立派な休息だ」



不死川への、俺の奇襲に慌てた甘露寺を宥めていると、戸が数回叩かれた後にゆっくりと開いた。


この屋敷の主人も、顔色は良くない。



「………あらあら伊黒さん、流石です。私も今日こそは、背後からでも睡眠薬をぶっ刺そうと狙っておりました」


「注射か。それも悪くはないだろうが、こちらの方が手っ取り早い」



そうですねえ、と微笑みながら、胡蝶は血圧計を取り出してAの傍へと歩み寄る。


胡蝶の手によって、布団からそっと出されたその腕は、指先まで包帯だらけだった。



自分達は未だ上弦と、戦ったことがない。



あの炎柱・煉獄杏寿郎を葬り、音柱に片目と片腕を失わせ。

柱とほぼ同等の強さを誇るAが、共に戦ったというのに。




……………ならば上弦のその先、鬼舞辻無惨は一体どれ程の。


そこまで考えたところで一度、頭(かぶり)を振った。



・

33 : 甘露寺を泣かせるな　→←31 : 愛の言葉　

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す