31 : 愛の言葉 ページ32
side 伊黒小芭内
宇髄はどうしたと尋ねてきた不死川に状況を説明すれば、ふ、と吐き出される溜息。
「………煉獄といい、宇髄といい…………上弦ってェのは、ンな強ェんか」
「俺もまだ遭遇はしていないから、正確にはわからんがな。宇髄とA、それに庚の3人が揃いながら、ここまで酷く全員やられるということは…………柱3人分とも、言えるかもしれん」
「…………3人分、かよ」
チ、と舌打ちする胸中を、俺が測るのは良くないのだろう。
大切に想うAを喪うかもしれないという恐怖に今、必死で抗っている不死川のそれを。
「お前がAに付いていられるのなら、俺は本部に向かう。お館様に、報告はせねば」
「あァ………頼む。………警備と任務以外、オレは基本ここに居る」
「そうしてやれ。大好きな師範が傍にいてくれれば、Aも百人力だ」
「ハ………そんぐれェで戻ってきてくれりゃ………孝行な弟子だがなァ」
そう言って不死川は、Aの額にそっと触れた。
ひどく優しい手つきで、それは優しい表情で。
「お前は照れ臭いだろうが、合間に話しかけてやるといい。意識が無くとも、聴力は機能するらしいからな」
「話しかける、ねェ……」
「…………愛の言葉を囁いてやるというのも、ひとつの手だが?」
あえてそんな事を提案した俺に、不死川は軽く吹き出した。
「ふはっ…………どのツラ下げて言えってンだよ、オレに」
何か想像でもしたのか、喉奥で笑っている。
その眉はまだ、下がったままではあっても。
そうだ、今は笑ってやれ。
悲しむな。
…………………Aは、そんなことを望まない。
「また様子を見に来る…………難しいだろうが、休める時は休め。お前が身体を壊せば、Aが悲しむぞ」
おォ、と片手を上げてみせた不死川にそう言い置いて、俺は病室を後にしたのだった。
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