《前編》改）言えない師範と言わない継子【不死川実弥】

28 : 鎹鴉の知らせ ページ29

side 不死川実弥






事後処理のため現場へ到着した隠達に、口頭で報告内容を伝えた。


キナ臭い案件ならば自ら本部へと赴くが、今夜はその必要はない。



「………ンじゃ、後は頼む」



承知しましたと一礼してから、その隠がおずおずと口を開く。



「あの、風柱様…………腕の手当は」



鬼をおびき寄せるため、オレが自分に傷をつけることは、隠達もよく知っていた。


とはいえ、自分でつけた傷の状態くらいわかる。



「もう済んだ。問題ねェ」



巻いた包帯を見せつけるように腕を振り、1人、踵を返して歩き出した。





間もなく夜明け。

鬼殺隊士ならば皆、安堵する時間帯だ。


屋敷に帰ったところでAはまだ居ない、と思いあたり、歩む速度を敢えて緩めた。




1人で飯を食い、仮眠を取って鍛錬。

そうして宵にはまた、鬼を狩りに出る。


もう何年も、こんな生活を繰り返してきたはずだが。



(………味気ねェなんざ、思うようになるとはなァ)





(師範、おかえりなさいませ!!)
(ただいま帰りました、師範!!)




屋敷に響くその声に、自分はどれだけ救われていたのだろう。

向かい合って摂る食事に、他愛もない会話に。




オレはどれだけ……………………Aに。







再び何の気なしに、吉原の方向を見遣った時だった。


見間違えるはずもない漆黒の影が、相当な速さで飛んでくる。

只事ではない様子に、跳ぶように駆け出した。



「爽籟!!!」


「ッ、カァァァ!!! AA、音柱ト共ニ、吉原ニテ上弦ノ陸、撃破ァ!!」


「っ!!」



タダシ、と息つく間も惜しむように、爽籟は続ける。



「現在、意識不明!! 蛇柱ニヨッテ蝶屋敷ヘ搬送中!! 搬送中ゥゥゥ!!」


「なっ……?!」



急ゲ実弥!! と叫んだ爽籟と共に、一気に加速した。



「………吉原ニ向カウ途中、風花ニ会ッタ!! 蛇柱、自分ガ運ブ方ガ早イッテ、連レテッタッテ!!」


「伊黒が、」


「ダカラ実弥ハ、蝶屋敷ヘ向カウ方ガイイ!!」


「わかってらァ!!」



クン、ともう一段速度を上げ。



(………オレより先にゃ、死なねェっつっただろうが!!)



胸内で、大切なアホ弟子を罵りながら。


朝日が昇りかける中をただひたすらに、駆けた。



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