《前編》改）言えない師範と言わない継子【不死川実弥】

19 : 師範の訪問 ページ20

・






『………おいでなんし、翡翠でありんす』



三ツ指で源氏名を名乗り、お出迎えした私に降ってきた「よろしくなァ」と笑みを含んだ低い声。


聞き慣れ過ぎたそれに思わず眉を下げてから、しぶしぶ姿勢を戻す。



「クク………案外似合ってんなァ、うまく化けてら」



今日は非番だ、と腰を下ろしたのは我が師範。

着流し姿なのは、完全にプライベートという意味だろう。



『たまの非番くらい、お屋敷でゆっくりなさればよろしいのに』


「遊女姿も悪かねェって、爽藾が言ってたかンなァ。一度ぐれェ拝んでやっか、ってよ」


『ふふ、宇髄様にお化粧の特訓受けましたからね』



まじで「おてもやん」にされたらどうしようって震えたけど、何故か私には、ごくごく普通のお化粧で。

扱いの差!!なんて、我妻善子は叫んでた。




どうぞ、と差し出した杯を受け取り、注いだお酒に口をつけながら、師範は私をしばらく眺めた。



「状況はァ」


『他の隊士と共に、奥方様達と同じ3つの小屋に分かれて潜入しておりますが……このときと屋に居られた須磨様は、店では足抜けしたことにされています。………ある日突然お姿を消し、部屋には足抜けを示唆する日記が残されていたと』


「………有り得ねェな。日記とやらも、須磨さんが書いたモンじゃねェだろ」


『おそらく。夜は鬼の気配が濃くなりますし………昼でも、ほんのわずかですが感じます。辺りに潜んでいるのは間違いないでしょう』



私の報告にふむ、と頷いて腕組みをした師範は、表情を硬いものへと変える。



「それほど人に紛れるンが上手ェとなると、やはり上弦か…………わかってるだろうが、油断はすンな」



はい、とさすがに神妙に返事をした私に頷いてから、師範はまた杯を干す。


空になったそれに注ぐべく酒器を捧げ持てば、もういいと静止された。



そうして師範は何故か珍しく、あーだのうーだの言い淀む。


その後頭部ガシガシ掻くのってアレですよね、照れた時とか気まずい時の癖ですよね。



どーした、師範。


・

20 : 手つきがやらしい→←18 : サービス (精神) が過ぎる

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す