34 : また次の、春 ページ35
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高校生になって、2度目の春。
始業式、こっそりしていた淡い期待はあっけなく外れ、再びその多くの顔と名前がわからない教室に、私は入った。
救いは同じバスケ部で仲の良い友達が、同じクラスだったこと。
その2人の内1人は、去年の点火祭に一緒に行った男子で。
「………仙道っ……!」
3時間目は、教室移動で科学。
2時間目と3時間目の合間に行われる礼拝に参加し、科学室での指定された席に座って、授業の始まりを待っていた時のこと。
同じクラスとなり、去年よりも親しみを込めて「サン」呼びを止めたらしい粂野くんの声に、反射的にそちらを見遣った。
ドドド、と何故か勢いよく走りながら、こちらへ向かってくる。
不思議に思い、問いかけようとしたその時。
「………っ、待ちやがれ匡近ァ!!」
聞き慣れた声には何だか、焦るような色。
今はもう、お互いの教室の階まで変わってしまった、元・クラスメートだった。
その姿を見た瞬間、高揚を自覚する。
「仙道、パス!!」
『………えっ?!』
ドン、と机の上、無造作に投げられたもの。
それは礼拝に必ず持参する、誰かの聖書だった。
よろしく!!と半ば叫ぶように言い置いて、粂野くんはまた、科学室の後方から出て行く。
『あっ………ちょ、粂野くんっ……!』
状況がわからないまま、その聖書を手にした瞬間。
「………ワリィ、仙道」
ほんの少しだけ息を上げた不死川が、すぐ目の前に立つ。
言葉を交わすのは、3月の修了式以来だった。
『あ……ううん。これ不死川の?』
「おォ。……ったくアイツまじで、ヨケーなことばっかしやがる」
はい、とそれを差し出せば、彼は律儀に礼を言う。
そうしてガシガシと、後頭部をかいた。
「………元気、かよ」
部活で顔は見るものの、こうして話せる機会は格段に減っていた。
『うん。不死川も元気?』
彼女さんと同じクラスで良かったね、と続けようとした唇は強張り、結局それは言えなかったけれど。
おォ、と不死川が頷いた瞬間、予令が鳴る。
「やべ。………ンじゃ、またなァ」
聖書を受け取った反対側の手で、私の頭をポン、とひとつ撫でてから。
不死川は素早く、その場を後にした。
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ツナミカワ(プロフ) - ひよさん、ツナミカワです。またまた涙無しでは見れなかったです。最初三角関係だったのに天元にはちゃんとはっきり言えて、そこから実弥との進展がどうなるか楽しみながら見ていました。相変わらず感動させてくれる作品をありがとうございます😊 (3時間前) (レス) @page50 id: 8933f39901 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - 柚葉さん» 柚葉ちゃん、いつもコメありがとうございます♡ イチゴのようにちょっとでも甘酸っぱくなっていれば嬉しいです!! (2022年4月17日 20時) (レス) id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - よっしーさん» よっしー様、初めまして!! コメのおねだりにお応え頂き本当にありがとうございます♡ すごく嬉しいです!! なんと、、推し変の可能性とは……恐れ多くて震えますが、そんな風におっしゃって頂き浮かれちゃいます♡ 新作も、またお時間あれば読んでやって下さい!! (2022年4月17日 20時) (レス) id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - 京華さん» DK言うてたのが、甘酢でしっくり収まった次第です(笑) 天元さまは憧れの先輩であり、自慢のお兄ちゃんでいてほしい願望でした♡ つかこの話、オチは実弥な??(笑) いつもコメありがとう!! めちゃくちゃ励みになりました♡ (2022年4月17日 20時) (レス) id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - あさひゆうひさん» もう……わざわざ2回もコメありがとうございます(泣) 愛しかねえです!! ここぞと言う時に使いたいのが、伊黒さんと天元さまなのが通常運転(笑) ちょっとでもきゅんしてもらえて良かった♡ 藤の花も宜しくです♡ (2022年4月17日 20時) (レス) id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
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