それは恋だったと【不死川実弥】

31 : 気づけなかったんだ ページ32

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あの瞬間の私には、先輩しか見えておらず。

自分のことしか考えていなかったから。







気づけなかったんだ。

もう一人の、綺麗な銀の髪をもつ彼が。





……………………………私達を遠くから、見ていたことに。








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「だいぶ元気が出てきたようですね」



バレンタインから2週間程が経ち、しのぶにそんな指摘を受けて、つい苦笑した。



『やっぱり私、わかりやすいのかな』


「Aは素直ですから。私は好きですけど」



点火祭(てんかさい)の後、しのぶにだけは先輩とのことを話していた。

もちろん、バレンタインデー当日の話も。



ありがと、と笑うのは、苦痛ではなかった。


清々しいとまでは言わないけれど、どこか吹っ切れてきたのは事実で。



『………望みがないならないで、はっきりしたのが良かったのかも』



期待はしていないはずだった。


でももしかしたらどこかで「自分は特別かもしれない」などと、考えていた節もある。



「………Aなら他に、良い人が居ます」


『だったら嬉しいけどなー』



差し出されたポッキーを、お礼を言いながら受け取ったその時。



「あ、いたいた。実弥ー?」



少し語尾の上がった愛らしい声が、私達のすぐ側、教室のドアから上がった。


一部の女子から、「さねみん」とふざけた調子で呼ばれることはある。


でも。



「………あァ、」



名前呼びされたことを何も咎めず、男子達の輪から抜けてきたその姿を、つい目で追った。


瞬間、合ったような気がした視線。


でも彼はそのまま、ドアの向こうへと姿を消す。



「………A組の、内部生で」



私は知らないその名前を、しのぶが口にした。



「中等部の時に、不死川くんと付き合っていたことがある方です」


『………元カノ、ってこと?』



しのぶに尋ねた声は、自分でも驚くほど小さかった。


だって何だか。



「………どうでしょうかねえ」



しのぶの言いたいことは理解できた。



" もしかしたらもう、「元」はつかない "



でもその言葉を想像したら何故か。


胸がぎゅっと、ひどく締めつけられたような気がした。



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