18 : その声に縋った 2 ページ19
・
ホームを歩く、たくさんの人達の間を縫うようにして、不死川は駆け寄ってきた。
その表情はこわばっているようにも見え、それを不思議に思いつつも、無理をして笑顔を作る。
『おはよう。不死川もこの電車だった?』
「こっちこィ」
いつもなら「はよォ」と返されるはずの挨拶はなく、不死川はその硬い表情のまま、私の腕を引いた。
そうしてエスカレーターへと向かう人波から外れ、邪魔にならなさそうな所へと導かれる。
どうしたのと尋ねる前に、不死川は素早く、羽織っていたカーディガンを脱いだ。
『え、何?』
「いいから」
彼はそれを私の腰へと巻きつけ、袖を結ぶ。
すぐには理解しかねた行動の意味を教えてもらったのは、その後だった。
「………やっぱ気づいてねんか」
スカート切られてる、と続いた言葉は、私の頭をつるつると滑り。
『え……………え、何それ』
「じゃあケガはさせられてねェな?」
まだ状況がよく飲み込めていないまま、それでも目の前のひどく真剣な眼差しに、コクコクと頷いてみせた。
それを見て不死川は、大きく息を吐き出す。
「驚かせてワリィ。ホーム出たらお前の後ろ姿が見えて、何か変だと思ってよ」
ケガなくて良かった、と頭に乗せられた、やっぱり温かくて大きな手。
その安心感からか。
ようやく、自分が車内で受けた屈辱的ともいえる仕打ちを、理解した。
『………っ、』
「最低のクズ野郎が。オレが近くに居たら、ンなことさせなかったのによォ……」
すまねェ、と何故か謝り始めた、不死川の優しさと。
私の頭を何度も撫でてくれる温度に。
張り詰めていた感情は一気に緩み、視界が滲んでいく。
(ちゃんと、お礼…………言わなきゃ)
そうは思っているのに。
喉の奥は焼けつくように熱く、言葉などひとつも形になってくれない。
泣くな、落ち着け、と自分に言い聞かせていたその時。
「………無理すんなや」
いつもより落ち着いたトーンの声が、頭上から降ってきた。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 190人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ツナミカワ(プロフ) - ひよさん、ツナミカワです。またまた涙無しでは見れなかったです。最初三角関係だったのに天元にはちゃんとはっきり言えて、そこから実弥との進展がどうなるか楽しみながら見ていました。相変わらず感動させてくれる作品をありがとうございます😊 (9時間前) (
レス) @page50 id: 8933f39901 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - 柚葉さん» 柚葉ちゃん、いつもコメありがとうございます♡ イチゴのようにちょっとでも甘酸っぱくなっていれば嬉しいです!! (2022年4月17日 20時) (レス) id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - よっしーさん» よっしー様、初めまして!! コメのおねだりにお応え頂き本当にありがとうございます♡ すごく嬉しいです!! なんと、、推し変の可能性とは……恐れ多くて震えますが、そんな風におっしゃって頂き浮かれちゃいます♡ 新作も、またお時間あれば読んでやって下さい!! (2022年4月17日 20時) (レス) id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - 京華さん» DK言うてたのが、甘酢でしっくり収まった次第です(笑) 天元さまは憧れの先輩であり、自慢のお兄ちゃんでいてほしい願望でした♡ つかこの話、オチは実弥な??(笑) いつもコメありがとう!! めちゃくちゃ励みになりました♡ (2022年4月17日 20時) (レス) id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - あさひゆうひさん» もう……わざわざ2回もコメありがとうございます(泣) 愛しかねえです!! ここぞと言う時に使いたいのが、伊黒さんと天元さまなのが通常運転(笑) ちょっとでもきゅんしてもらえて良かった♡ 藤の花も宜しくです♡ (2022年4月17日 20時) (レス) id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
