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さすがに恥ずかしくなったのか、一層力が強まった腕を、ボンボンと軽く叩いた。
でもさ、とその耳元に唇を寄せる。
「…実弥くんしか知らないこともあるんじゃない?」
「………へェ」
まだ視線を合わせてこない彼の耳が、よく見ればほんの少し染まっていることには触れずに。
「あ、まだちょっとだけ食べれたりする? リベンジ
したいんだけど」
リベンジィ? と繰り返す彼の腕から抜け出してキッチンへと戻り、準備しておいたそれを手に取った。
「はいこれ。バレンタインのやり直しさせてよ」
差し出したお皿には、実弥くんが一度帰った後に思い立って作ったブラウニー。
先月のバレンタインに渡そうとして、結局やめてしまったそれを目の前にした実弥くんは、大きな瞳を見開く。
………いくら意地っ張りの私だって、ちゃんと言わなきゃいけないことくらいわかってるよ。しのぶ。
ス、と小さく息を吸って、今更うるさく鳴り始めた心臓を宥めながら口を開く。
「ホントはさ、バレンタイン……これ渡すつもりだっ
たの。練習までしてたんだ、バイト先で教えても
らって」
ああ、早口になっちゃった。
だってテレくさいのはどうしようもないし、なんて心の中で言い訳を始めた瞬間、ためらいなくブラウニーをつまみ上げた綺麗な指先。
「ン、美味ェ」
「……ホントに?」
「Aさんの手作り、っての差っ引いても十分
美味ェ」
何それ、と返したのは、憎まれ口に近いけれど。
「……考えてくれてたんだなァ、ちゃんと」
「3回くらい事前に練習したよ」
「あン時ゃ正直キツかったけどよォ……それ聞いた
ら、何かもうどうでも良くなったわ」
ブラウニーをもう一つ口に放り込んでから、実弥くんは立ち上がる。
「……わっ…」
そのまま簡単に私を抱え上げて、数時間前にも一緒に寝ていたところまで、迷いもせずに。
ポス、と転がされたその上で、目の前には何だか意地悪な顔をしている彼。
「ちょ、またいきなり過ぎない?」
「Aさんが可愛いこと言うンがワリィ」
ヒトのせいにするな、と言いかけた唇は、キスで塞がれた。
「……あるンだろォ? オレしか知らねェAさん
の、ってヤツも」
「……こういう意味じゃないんだけどなー」
都合の良い解釈に眉を寄せてやれば、彼はクツクツと楽しそうに笑ってから。
ほんのりカカオ風味の、甘いキスをくれたのだった。
終
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ひよ(プロフ) - あさひゆうひさん» しれっと続き書いててゴメンナサイww それでもコメまで残してくれるアナタが大好きです♡ ぎゆさんには幸せになって欲しい願望、わかってもらえて嬉しい!! (2021年12月27日 14時) (レス) id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
あさひゆうひ(プロフ) - 続きをありがとう!完全なハピエン!!こういうトーンのお話、ぎゆさんとっても似合う!そんで、ひよちゃん本当に書くのがうまい!言葉に出来ない程ぎゆさん幸せにしてくれてありがとう!!!(秒飛び出来なかったから拗ねて一日コメントしに行かなかったんじゃないよ!) (2021年12月26日 23時) (レス) @page50 id: 9c7376e839 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - りりちゃんコメントありがとうございます!! この前の塩辛さから一転、せっかくのバースデーなので甘いのにしました!! 笑 実弥くんと酒飲みたい私の願望……笑 (2021年11月30日 21時) (レス) id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - あいすさん» あいすさん、コメントありがとうございます!! そう言って頂けて本当に嬉しいです!! 少しずつオトナになっていく実弥くんも、中々良いですよね……あいすさんも更新頑張って下さい!!、 (2021年11月30日 20時) (レス) id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - あさひゆうひさん» コメントありがとうございます!! 告知スマンな、、でもすぐ読みにきてくれるキミが大好きです 笑 バースデー連載お疲れ様♥ 私も書けそうな時にボチボチ頑張りまーす!! (2021年11月30日 20時) (レス) id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
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