4: ☆「不器用」(冨岡義勇) ページ15
side冨岡義勇
《余裕なんてないから》
瞬間、目を奪われたのは事実でも一目惚れではなかった。
それこそ何年もの月日をかけて、自分は。
ーーー 彼女に惹かれていったのだと思う。
「……ビル、探してます?」
未だ梅雨明けが宣言されない、蒸し暑い朝だった。
就職活動を無事に終え、内定式のために降り立ったのは、忙しなく人が行き交う東京駅。
最終面接で訪れたはずの就職先はビルが乱立する丸の内にあり、せいぜいがひと月前の記憶すら曖昧な自分に落胆していれば、そんな風に掛けられた声。
驚いて視線を向けた先には、自分と同様、ダークカラーのスーツを着た女性がいた。
「あ、すみません……その封筒の社名」
オレが脇に抱えていたのは、会社から受け取ったそのままを持参した封筒で、社名入り。
「もしかして内定式ですか? 私もなんです」
肩に掛けた大きめのバッグから全く同じものを取り出して、その彼女は微笑んだ。
すなわち同じ会社に内定が決まった同級生である、という結論を出すのに少々時間が掛かったのは、その外見のせいだと思う。
綺麗に整った顔と落ち着いた声、穏やかな微笑みは、いくつか歳上のようにも見えた。
「……あ、はい」
そんな最低限の返事しか出来ないオレにも気分を害したような気配は見せずに、良かった、と彼女はもう一段笑って。
「同じようなビル多くて、わからなくなるよね。一
緒に行く?」
恋愛と無縁だったわけではなかった。
恋人と呼べる存在はそれなりにいたし、もちろん、誰かを好きになるという感情を知らないわけでもなく。
……ただ、「女友達」というものは。
「……よろしく頼む」
答えとしては気の利かない言葉にも笑顔のまま頷いた彼女とは、そんな関係になれるかもしれないなどと。
その時は何故か、勝手に考えていた。
初対面の印象と期待は、幸い裏切られなかった。
配属先も偶然同じだったAAとは、ハードな業務の中で助けあったり、慰めあったりできる仲になり。
言葉足らずと指摘されることの多いオレの意図を汲み取ってくれる、貴重な存在だった。
だから覚えた好意が持つ意味にも、少しずつ変化が生まれていったのだろう。
今ならば簡単に出せる結論も、あの頃はまだ、言葉にすることすら出来ずにいた自分に。
「Aさんと、結婚させて下さい」
この決意を口にする日が数年後に来る事を、教えてやりたい。
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ひよ(プロフ) - あさひゆうひさん» しれっと続き書いててゴメンナサイww それでもコメまで残してくれるアナタが大好きです♡ ぎゆさんには幸せになって欲しい願望、わかってもらえて嬉しい!! (2021年12月27日 14時) (レス) id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
あさひゆうひ(プロフ) - 続きをありがとう!完全なハピエン!!こういうトーンのお話、ぎゆさんとっても似合う!そんで、ひよちゃん本当に書くのがうまい!言葉に出来ない程ぎゆさん幸せにしてくれてありがとう!!!(秒飛び出来なかったから拗ねて一日コメントしに行かなかったんじゃないよ!) (2021年12月26日 23時) (レス) @page50 id: 9c7376e839 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - りりちゃんコメントありがとうございます!! この前の塩辛さから一転、せっかくのバースデーなので甘いのにしました!! 笑 実弥くんと酒飲みたい私の願望……笑 (2021年11月30日 21時) (レス) id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - あいすさん» あいすさん、コメントありがとうございます!! そう言って頂けて本当に嬉しいです!! 少しずつオトナになっていく実弥くんも、中々良いですよね……あいすさんも更新頑張って下さい!!、 (2021年11月30日 20時) (レス) id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - あさひゆうひさん» コメントありがとうございます!! 告知スマンな、、でもすぐ読みにきてくれるキミが大好きです 笑 バースデー連載お疲れ様♥ 私も書けそうな時にボチボチ頑張りまーす!! (2021年11月30日 20時) (レス) id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
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