甘やかな唇【不死川実弥】【冨岡義勇】

１: ★「生意気」(不死川実弥) ページ2

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《キミしか知らない》




「本当におめでとうございます、A」


「……いや、どしたのいきなり」


事前に何の連絡もよこさず私のアパートのインターフォンを鳴らしたのは、小学生の頃からの親友だった。


「まあ……せっかくお祝いのお赤飯を届けにきたと
　いうのに……随分とひどいお顔で出迎えるのです
　ねえ」


「ひどいお顔はさすがに傷つくわー」


「いえ。造形のお話ではなく、だいぶお疲れのよう
　に見える、という意味です」


「ああ、遠回しにブスて言われてんのかと」


失礼しちゃいますねぇ、とむしろ私のセリフじゃないかと思う呟きを残して、親友・胡蝶しのぶはさっさと部屋の中へ入っていく。


玄関の鍵を閉めてから、その小さな後ろ姿を追いかけた。









「こんな急に来て……居なかったら、どうするつもり
　だったワケ?」


3月上旬の夜は、まだ冷える。


温かいお茶を淹れ、その前にコトリと置いた。

律儀に礼を言ってから、しのぶは湯呑みへ口をつける。


「……今日は、合格発表をご一緒に確認するとのこと
　でしたので」


ズ、と美しい所作でお茶を啜ってから、しのぶはおもむろに口を開いた。


昨夜、私と彼の間に起こった出来事についてはもちろん、ラ○ンで報告済だ。

今日のその予定も。


「そうでなくとも今日は、Aは初めから、バイ
　トはお休みにしてあるだろうと思っていました」


「何で思考読まれてんの怖い…!」


侮られては困ります、とニッコリ笑うしのぶにはとりあえず、ｽﾐﾏｾﾝﾃﾞｼﾀと頭を下げた。


「で、その彼……合格は当然していたとして」


「あ、うん。してました……待ってお赤飯て実弥くん
　の合格祝い?」


今ここには本人居ないんだけども。

いや何か、後でまた来るらしいけども。


さすがに驚いて問いかけた私に、しのぶは少しだけ、顔を傾けてみせる。


「うーん、それも兼ねていると申しましょうか」


「兼ねる、って何と」


頭に疑問符を浮かべた私に、しのぶは破壊力バツグンの笑顔を向けて。


「決まっているではないですか。Aがようやく
　処女ではなくなったことへのお祝いですよ」


クモの巣が張る前で本当に良かったです！ と、全くもってその見た目に似合わないお下品なセリフを笑顔で吐いた親友に、私の眉は情けない角度で下がったのだった。



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