大人 ページ44
2009年
スパショのリハーサルが終わり、僕は少し一人になりたくてどこか場所がないか探している。
外の階段へ続くドアを開けた。
「さむい……」
ドアを開けた瞬間に吹き込んでくる冷たい風。暖かい格好をして来たけどやっぱり1月の寒さは格が違う。
「あ…」
階段の踊り場には先客がいた。景色を眺めながら黄昏ているその人に静かに近づいた。
HG「近くにいたら体に悪いよ」
「ヒョンの方が体に悪いよ」
僕の方は見ずふはっと笑い、煙草をふかせてる。
ヒョンは少し僕から離れ、煙草の煙を僕から遠ざけた。
ヒョンは僕の前ではあまり煙草を吸わない。「体に悪いよ」って本人は吸ってるくせにそう言うんだ。
HG「どうしたの？」
「気分転換、ヒョンは？」
HG「ぼくも」
ふぅと煙を出すヒョン。
僕はヒョンと同じように手すりに寄りかかった。
HG「ん？」
ヒョンに微笑みかけられて自分がヒョンに見とれていたことに気づいた。なんだかカッコよくて見とれてたんだ。
「…僕もタバコ吸ってみようかな」
HG「やめときな」
「どうして？」
HG「体に悪い」
「ヒョンはやってる」
HG「僕は大人だからね」
「僕ももう大人だよ」
ヒョンはふふっと笑って僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。子供扱いされてるみたいで悔しい。
HG「それにAはコレ嫌いでしょ？」
「まぁ…」
HG「じゃあ早く戻りな？匂いがつくし、」
「ヒョンならいいよ」
HG「え？」
「ヒョンが吸うのは嫌いじゃない…」
僕は手すりにかける手に顔を埋めるようにしてそう小さく言った。
「ヒョンの匂いも好きだよ」
HG「…そっか」
「うん…」
僕はなんだか恥ずかしくなってまた遠くの景色を眺めた。ヒョンも何も言わずに同じ方向を見てる。
チラッとヒョンを見ると、煙草を吸うその横顔は大人の雰囲気があり色っぽい。きっと、どう頑張って背伸びをしても届かない。僕を大人として見ないその振る舞いに少し悔しくなる。
「カッコイイ…」
HG「え？」
「え？」
HG「何か言った？」
「何も、」
HG「そう？」
「うん」
思わず出た言葉を必死に隠して取り繕う。
僕も煙草を吸えたらこんな風になれるのかな。
少しは僕を大人として見るのかな。
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作者名：りんご | 作成日時：2023年10月9日 17時
