第拾肆幕 ページ16
【心酔しきったのは】
酔うも覚めるも船漕ぎのように。水面に浮かぶ籠のように。ゆらりゆらりとたゆたうのは、死体ではなく。己が心と申すのである。
Aは疲れきった顔で、冷やし中華をすすった。末広に負けてしまって結局、博士とかいう胡散臭い肩書きの人間にご馳走になった。
つまり、どこぞの幼女趣味(ロリコン)に西洋菓子を贈られるような気分だ。食べ終わったら、末広と共に流しをかりて食器を洗う。
『……末広さん』
「何だ」
『早く切り上げましょう。そろそろ二人に任せた罰も終わったことでしょうし』
「嗚呼」
『時間もないんですから』
外で先日会った子供達が遊んでいるのを、窓硝子越しに見つめる。あの人数の子供になつかれるのは、自分であれば御免だな。
暑い陽光が差し込み、思わず目を細める。末広が蛇口を止めて、食器を片付けた。ソファーに座り、機械をいじる博士に声を掛ける。
「すまなかった。申し訳ない」
『本当にありがとう御座いました』
「いやいや、気にせんでください。子供達が先日、お世話になったようですし」
『いえ。あの、私達は仕事がありますので』
「帰らせてもらう」
「えっ!?もう帰ってしまうんですか」
やや残念そうな顔をする博士。駄目だ、絶対にこの人は後ろから頭を殴られたら直ぐに気絶する人だ。警戒心が薄めなように思える。
『本当に申し訳ないです』
「同僚に任せていた仕事が恐らく一段落したはずだからな」
「もう帰るの」
博士の後ろから顔を覗かせたのは、茶髪の少女。探るような視線に不愉快を感じながらも、業と笑顔で対応する。勿論、末広は無表情だ。
Aは同じ目線になるようにしゃがみ、頭を撫でようとしたその時。明らかに怯えた様子で伸ばした手を払い退けられたのだ。
これには唖然として言葉を失う。博士も眉を潜めて足元の少女を見つめた。彼女は我に返ると顔を白紙のようにして、頭を下げる。
「ご、ごめんなさいっ」
『……大丈夫、仕方ないもの』
「A……?」
『“こんな仕事”してるんだから、当然よね。鏡花ちゃんにも、Qちゃんにも。初めはこんなだったし』
そうだ、自分は裏社会一。危険で非道で悪逆な異能力者。災厄を背負って、戦場を一夜にして血溜まりにする者。災禍そのものなのだ。
少し。ほんの少しだけ傷付いた心にうぅ、と心中でうめいていると末広に頭を撫でられた。違うのだ、そうじゃない。末広じゃない。
猟犬に慰めてもらいたいわけじゃ、ない。
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セニオリス - カノンさん» 有り難う御座います。カノン様もコロナが流行っているこの時期、身体は大切にしていただけると幸いです。何れはこの作品もリメイクしたいと思っています。 (2020年4月23日 15時) (レス) id: 353512f049 (このIDを非表示/違反報告)
カノン(プロフ) - 了解しました。そういう時もありましょう、お大事にしてください。寝たきりになるほどのものということは、相当大変なものなのでしょう。1日でも早い回復をお祈りいたします。どうかご無理はなさらずに。 (2020年4月23日 0時) (レス) id: 4add46839e (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - ひなさん» 中也は多忙なので、電子ゲームだと太宰に無理矢理付き合わせられて、RPGものしかやったことがないというこの作品の中也の作者の勝手な妄想です。所謂、裏設定的なものとして後程、ページに乗せておくつもりでした。ご指摘ありがとうございます!! (2020年2月8日 19時) (レス) id: 9ec8afc8ac (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - 少し疑問に思ったのですが、電子遊戯にかっこでRPGゲームと書いてありました。RPGはロールプレイングゲームの略なのでRPGゲームだとロールプレイングゲームゲームになるのかな、と思いコメントさせて頂きました。いつも楽しく読ませて貰ってます!更新頑張って下さい! (2020年2月1日 19時) (レス) id: c610c6a646 (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - 凛音さん» ありがとうございます!!最近、条野さん贔屓かもしれない……(笑) (2020年1月6日 15時) (レス) id: 91ffd2339b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年12月21日 19時