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第参拾壱幕 ページ33

【異能者探偵江戸川乱歩】


口の中で噛み続ける風船ガム。溶けて消えることはないそれは、乱歩の舌で遊ばれていた。目的地は消えたらしき路地裏の細道。

乱歩の前をどんどん歩いていく鏡花に対して、谷崎は怯えるように乱歩の上着の裾をつかんで身を縮こませた、薄暗い路地の裏。

「谷崎」



「は、はい!?」



「君は男だろう?」



「え、あ、そうですが」



「なら僕の後ろで掴まって震えるのはやめろ。うざったらしいぞ」



なんて諭すように云いつつ、忍ばせていた駄菓子を口の中に放り込んだ。慌てて鏡花についていく谷崎を眺め、乱歩は立ち止まる。

「……踏切」



カンカンカンと鳴り響く踏切の音。だが、それは可笑しいのだ。この辺りに踏切おろか線路も通っていない。だというのに、だ。

間違いもない踏切の音。この細道よりさらに細い左右に広がる細道。右手の方から聞こえる音。そちらを向き、翡翠色の瞳を見開く。

行ってしまった二人を呼び戻すことは不可能だ。戻ってきたら音が消えていた場合、どうする?折角のチャンスを逃すほど甘くない。

一匹の黒猫が、乱歩の足をそっとすり抜けて真っ暗な右手の細道へと駆けていく。息を呑んで、汗ばんだ手のひらを開閉する。緊張。

一人で行くということも覚悟がいる。特異点なのだ。何が起こるのか分からない。敦達が行った世界とも違う別世界だったら?

「大丈夫だ」



その全てを凪ぎ払う。乱歩の五感全てが、鋭敏に研ぎ澄まされた感覚が、“当たり”なのだと。そう伝わってくるのだから。

「だって、僕は世界一の名探偵だからね」



右足を踏み出し、消えた黒猫と同じように軽い足取りで駆け出した。何時ものようなふざけた笑みを浮かべて、それでいて真剣に。

所持していた飴の空高く放り投げ、口へと入れた。ガムはいつの間にか溶けている。ラムネのようなシュワシュワとした味がした。

ぎゅっと目を瞑って、大きく手を振り、飛んだ。一瞬だけ静寂になり。同時にヨコハマの路地裏とは違う、“街”の音が溢れ出す。

「……うわ」



目の前にあるのは道路。後ろを振り向けば、あるのは路地裏ではなく何処かのビルの階段。歩道に出て、ビルを舐めるように見た。

「毛利探偵事務所……?」



どうやら探偵事務所があるビルらしい。チラリと横目に一階の喫茶店を見る。デカデカと窓に書かれた文字から、奥へ見えるのは。

「あ、敦ー!!」



「乱歩さん!?」



新たな人員が。殺人の町へと送り出された。

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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年10月18日 22時

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