第弐拾漆幕 ページ29
【雄弁なり沈黙なり】
この町は自他(自他と云えども一部の住民と他だが)が共に認める犯罪都市、米花町。ヨコハマ以上の殺人事件等が起こるとか。
芥川曰く。探偵の町とも云われていて、“眠りの小五郎”という異名を持った探偵が居るらしく。東の高校生探偵なんかも居るとか。
A曰く。公安刑事やFBIなんかの有力な警察組織が頻繁に出入りしているらしく、既に接触している確率がとても高いんだとか。
条野曰く。文豪として名前があり、異能名なんかも自分の名前と同じ文豪の作品として存在していて名前を名乗るのは危ういとか。
「はぁ……」
敦はモヤモヤとした頭を、真新しい新品の机に打ち付けた。覚えることを整理できないのは、困ることであり覚える代償でもある。
『敦くん、大丈夫?』
昨日買った可愛らしい白い虎が貼り付け(プリント)されたマグカップに、砂糖がたっぷりと入っているだろう珈琲を手渡された。
「ちょっと、何と云うか……」
『……嗚呼、分かるよ。なんかこう、壮大なものを考えると気持ち悪くなるよね』
自室で筋トレを行う末広。仮眠を取る芥川。掃除をする条野。項垂れる敦の向かいには、感情の読み取れない笑顔をしたAの姿。
九時辺りにでも、街の観光(と称した偵察)に行く事になった。現在は七時。テレビの中の天気予報士が、気温をハキハキと告げた。
この世界の四季はどうやら夏らしく、スタンダード島のことを思い出す。夏だったというのに、散々な海の出来事だったと思う。
武装探偵社にいる時間はとても楽しいが、過酷であり非日常的毎日だ。それにはもう慣れたのだが。何度目かの溜め息を溢した。
『ごめんなさい』
「……え?」
『ほとんど私の責任だから』
「そ、そんなことないですよ!!」
両手をパタパタと振って彼女の言葉を否定すれば、呆れたように困ったように眉を眉間に寄せて、笑顔とも云えない表情をした。
それは、彼女が負い目を感じているということであり。これから敦が垂れる不満を、正面から受け止めようとした覚悟の顕れだ。
『敦くんはすごーく優しいのね』
「そうですか……?」
『私の知り合いにも居たわ、そんな人』
「へぇ、今は何をされてる人なんですか?」
『死んだよ、数年ほど前に』
冷えた空気が敦の肺を襲った。切り裂くように凍てついた声音は、敦の瞳を見ていながらも。その何処か遠くを見据えているように。
Aがポートマフィアなのだと、改めて実感した。誰のことを云っているのかは定かではないが、確かに慈しむ想いが存在した。
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年10月18日 22時