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第拾陸幕 ページ18

【散る花弁こそ、故に】


硬直したまま数秒。溜め息をついて降参だと伝えれば、腰に回された腕が解かれ、くるりと後ろに体を回された。綺麗な瞳と交わる。

少し長めの黒髪と左目の目元にある模様が特徴的な青年の姿。あまりお目に掛かれない軍服は、茶と緑が程好く混じる深緑。

丈が長い肩掛けが長剣を隠し、半袖から覗く白く細いが逞しい男の腕が肩掛けから伸びている。ハイカラな手袋もかなり目立つ。

『嘘、でしょう』



「……?」



『私がマフィアだって知ってたでしょ?』



あまり変化のない表情が、少しだけ乱れた。図星のようで何よりだ。氣がそんな風に感じられた。問うも何も確信しているだろう。

当時逢った時は本当に心当たりがない素振りだったが、今回は事実を知った上で問いかけていた。Aの口から云わせたいのか。

「……嗚呼、確信はしている」



『末広さん、私を殺しますか』



「……?いや、保護対象だ」



その言葉に唖然となった。……否、何故。ポートマフィア首領の義娘で、数多くの人間を殺してきた大罪人が軍警の保護対象?

そんな馬鹿げた話があるはずはない。ぎゅっと手首を軽く握ったままの末広に、嘘の気配はない。というか、年上なのに可愛い。

自分より背が高いし、体つきも男だし、“猟犬”だし、力も強いけれど。なんか和む雰囲気を纏っている時点で、可愛すぎてヤバい。

『保護……?』



「Aの親はマフィア首領に殺されている。騙されているということだ」



Aは幼児健忘期がないことを、誰にも云っていない。森に親を殺したことを云われていないし、自身が知っていることも然り。

元マフィアのスパイで、異能特務課の坂口安吾あたりが調べたのだろう。よく調べてあるが、判断を下したのは安吾ではない。

『……そう』



此処で恰も知らないように振る舞うのは、自身のことを深く知られないようにする為。利益になる部分は、知られるわけにいかない。

「だから大人しく、俺に捕まれ」



『んー……、嫌かな』



頬を膨らませて、少し不機嫌そうな末広。可愛いな、と思ってしまう。だが、それよりも此処が何処なのかを分かっているのか。

『末広さん、此処が何処だか御存知ですか』



「……知らない」

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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年10月18日 22時

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