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第拾伍幕 ページ17

【その猟犬との出逢い】


彼との出逢いは些細なことだ。幼少の頃から大切にしている首飾りを、猫がくわえて持っていったのを追いかけていたら出逢った。

少女漫画のような出逢い方と云われれば、それまでだが。本当に些細なことだとAは思う。横浜の港近くの商店街を駆けていた。

『待って……!!』



異能で捕まえれば良い、というのもあるのだが、当時のAはその事がぽっかりと頭になかった。だからひたすら追いかけたのだ。

幾つも角を曲がり、狭い路地を異能の力で無理矢理通り、屋根の上を軽やかに上ったり。左右前後上下と迷路のように駆けていく。

そしてクレープの屋台の角を曲がった時だった。首飾りを奪った猫が、喫茶店(カフェ)の前で軍服の男に抱き上げられている。

ほっとしたのも束の間。その男の正体が天敵と言えよう“猟犬”。顔が異能特務課にバレてから、軍警の上層部には知られている。

特殊部隊である“猟犬”なら、尚更詳しい資料が配布されているはずだ。此処で近付けば、確実に逮捕される。況してや相手は。

『隕石切り……!!』



言葉に詰まる。だが、力が足りずとも、人にはどうしても退けない時がある。兎に角、大切なものには代わりないのだから。

「御前のそれは……」



『あ、あの』



「……?」



『その猫の首飾り、私のなんです』



「そうか」



くわえられていた首飾りを、意図も簡単に取り上げる彼。歩み寄り、手渡しで渡してくれた。思わず、首飾りを胸の前で握り締める。

『……良かった』



「大切なものなのか」



『そうなの、大切な人がくれたものでして』



「なら良かった」



では、と頭を下げようとしたのだが、彼の袋に入っているものを見て、驚愕の声を挙げてしまった……。嗚呼、なんという不運。

『え』



「……何だ」



『え、あ、いえ』



「これがそんなに可笑しいか」



『いや、その……。羊羮にウスターソースっていう組み合わせは驚きですね』



「色が似ているものは食べ合わせが良い」



『……紅茶と発酵西洋菓子(パウンドケエキ)とか猪口冷凍(チョコレエト)とココアとかなら分かりますけど』



「……御前は……?」



『よ、夜凪Aです』



教えて良かったのか、と後悔するが、咄嗟に口にしてしまったのなら仕方ない。悲惨な未来を想像して、顔を真っ青に染めた。

「なら少し付き合え」



などと云われて一日中、彼の味覚の悲惨さを知ることとなったのは忘れたこのはない。勿論、捕まらなかったことに驚いたが。

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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年10月18日 22時

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