第拾肆幕 ページ16
【猟犬とポートマフィア】
「僕は之にする」
「僕、家具なんか買っても良いんですか?芥川やAさんと比べたら一文無しですよ」
『お金は働けば良いし、衣服と家具は買おうか。食料は当分節約だね』
なんて云って先程買い溜めた三人分の大量の服と、日用品の袋に苦笑いをした。ルーシーちゃんの異能で荷物は押し込めてある。
その点には特に問題はないのだ。問題は恐ろしいほどに減っていくはずの大金が、財布から全く変わらないことだと思う。
マフィアの月収は何億なんだと云いたい。財布の重さが変わらない。というか一番重いのは財布だ。今にも弾け飛びそうなお金の量。
でもだからと言って、節約はしなければならない。お金は色々なところで必要になるし、本当はもっと必要なものもある。拳銃とか。
『私、家具選び終わったから、今日の夕飯買ってきちゃうね』
「嗚呼」
「すいません、御願いします」
¨ショッピングモール¨の中の一角なので、別にはぐれることはない。ましてやAは異能で探し出せば良いだけなので問題はない。
呑気に鼻唄でも歌いながら、歩を進めた。それがどうやら目に留まったらしい。手首を強く、絶対に離さないとでも云うように。
細く長い綺麗な指先がガッチリと手首に巻き付いた。剣士特有の豆の付き方といい、気配といい、この雰囲気といい、男の手といい。
『貴方、は……』
「久しいな、A」
後ろから掛けられた声。それと同時に後ろに抱き寄せられた。軍服の茶に寄った緑が視界にちらつく。嗚呼、どうしよう。何故だ。
振り返ることは、己の誇りが許さない。マフィア参謀としての誇りが崩れる気がする。危機を示す鐘が頭の中で軽快に鳴っていた。
冷や汗が背中を伝う。この紛れもない声も、体格も、匂いも、気配も、制服も。猟犬最強と唄われている剣士だという_______
『末広鐵腸……』
「嗚呼、俺だ」
『どうして貴方が』
「マフィアだったのか」
読み取れない表情からは、微かに驚きと深い悲しみ、少しの後悔の念が混じっている。此方とて知られてしまったことは否定しない。
月の形の首飾りが、僅かに身動きしたAと共に揺れる。それを逃がすまいと、力が籠められた手に、握られた手首が白くなった。
痛みは感じないが、猟犬最強の男に叶うはずもない。先ず、男と女という時点で無理なのだ。此処で異能を使うこともできない。
嗚呼、何てことだ。
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年10月18日 22時