【QK】硝子の靴【izw】

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ぐっと喉が詰まる。そんな感覚。


突拍子のない話だが、でも他人事ではないと本能が告げる。脳内で警鐘が鳴り響く。

忘れるって何の話？伊沢くんのことを？彼の言っていることを信じるの？彼だけを忘れているって？そんなのありえない。どうして？どうしてありえないと言いきれるの？本当に、私は彼を忘れている可能性があるのに？

忘れている証明も出来なければ、忘れていない証明も出来ない。ぐるぐると回る思考に目眩がする。


｢定期的にね、俺のことだけ忘れちゃうの。お医者さんも原因がわからないって。打つ手がないって。でもさ俺、諦めらんなくて｣

｢…｣

｢何度も、何度も。Aが俺のこと忘れる度に、色んなこと試して。そのことで須貝さんと喧嘩になったり、こうちゃん泣かせたり、色々あったんだよ？｣


何も、言えなかった。だって、私は、知らないのだ。そんな過去があったことも、今にも崩れそうな彼にかける言葉も。

彼は手に取った私の左手を、自身の額に当てた。


｢…A。俺、どうしたらいい？もう、諦めた方がいい？その方がAは、幸せ？｣

｢…｣

｢迎えに行くって、約束したのになぁ…｣


その言葉を聞いた瞬間、脳内にごうと声の波が押寄せる。



やだ、いや、また拓司くんのこと忘れちゃう、も、もうやだよ、拓司くん、たく、しくん……！

大丈夫。大丈夫だから。

でも…！

先輩、俺は、俺は何度だって先輩と出会います。これからも、ずっと。はじめましてから、やり直します。

た、くしくん

必ず、必ず迎えに行きますから。






＿＿＿＿ああ、全部思い出した。





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