検索窓
今日:9 hit、昨日:10 hit、合計:120,229 hit

振り返りなんて、しない。 ページ50

雨の中、やっとついたS.ODAと記された墓石の前に跪く。

「ほんとに…死んじゃったん、ですね…」

するっとその文字をなぞり掠れた声を漏らす。
雨に紛れて涙が瞳から落ちた。

「ぅ……ひっ…く…うぅ…」

嗚咽が、口から漏れる。
がりがりと墓石にすがりつく様に爪を立てた。

「ぅあ…あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“!!!!!!」

そして耐えきれなくなって俺は泣き、叫んだ。
何で、何でこうなったんだ……!
何で、救えなかったんだ……!
何で、こんな結末になってしまったんだ……!
何で、何で、何で…………




皆、死んで、しまったんだ。




そんなあらゆるこの世界に対する不条理を、疑問を、悲しみを含んだ声を上げて泣き続ける。

「ぁ“ぁ“…ぁ“ぁ“あ“…」

何時間泣いただろうか?
既に涙も枯れて、声も掠れてきたその時背後から歩く音が聞こえた。
俺は泣いて赤くなった虚ろな目で振り向くと其処には見知らぬ眼鏡を掛けた青年が花束を抱えて立っていた。

「あんた…誰…」

そう掠れた声で聞けば青年は花束を墓石の前に置いてから俺を傘に入れて言う。

「僕は坂口安吾です。…織田作さんの友人、でした」

そう答える坂口安吾と名乗った青年を見上げる。

「俺は、桐崎A…あんたも…織田さんの、友人か…ずるい、よなぁ…置いてくんだからよ…」

「そう、ですね…」

少しの間沈黙が落ちる。
その間にどうにか落ち着いてきた俺は横にいる坂口が特務課の人間だったのを思い出した。

「なぁ…坂口さん。アンタ、特務課の人だよな……?」

「っ?!何故知ってるんですか?」

「たまたまこの件を深く掘り下げていたら知っただけだ…なぁ、アンタにしか頼めないんだ……俺の、犯してきた罪を帳消しにしてほしい」

そうなんでもなく告げると坂口さんは少し難しい顔をしたあと尋ねてきた。

「何故ですか?理由を聞かせてください」

「…太宰が。探偵社に入ろうとしている……だから、俺も入らなきゃなんないんだ…織田さんに、頼まれたんだ…太宰を頼むって…それに、俺は、人助けがしたいんだ…」

そうぽつりぽつりと溢すと坂口さんは少し目を伏せてから言った。

「そう、でしたか。分かりました…貴方の罪を消しましょう。せめてもの、罪滅ぼしです」

そう悲しそうに笑う坂口さんはきっと歯痒い思いをしたのだろうと容易に想像出来た。
俺はもう既に雨が上がり虹のかかった青空を見てから墓石に向けて呟いた。

「行ってきます」

そして歩き出す坂口さんの後を追いながら決意する。




もう、振り返りなんて、しない。

この小説の続きへ→←何て、残酷で、何て、優しい言葉


【桐崎君にとっての周りの印象】

乱歩:唯一異能で一度自分の事を忘れた筈なのに覚えてくれた人物。推理だけで自分との関係を割り出した乱歩の事は本当に凄いと尊敬している。


目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (166 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
305人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

那戯田沢 亜須@グラブル中毒者(プロフ) - 倉の中の石さん» ありがとうございます!思惑通りに暗い過去と思って頂けてついガッツポーズを仕掛けました(笑)続編頑張りますね!! (2019年7月8日 0時) (レス) id: 480a6a9b45 (このIDを非表示/違反報告)
倉の中の石 - すごく面白いです。こんなに自然な暗い過去は久しぶりに見ました。続編も頑張ってください。 (2019年7月7日 17時) (レス) id: 873805d7e2 (このIDを非表示/違反報告)
那戯田沢 亜須@グラブル中毒者(プロフ) - 鶴さん» 読んで頂きありがとうございます!更新頑張りますね!! (2019年7月7日 14時) (レス) id: 480a6a9b45 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 初めて見たんですが、とっても面白いです!更新頑張ってください!応援しています! (2019年7月7日 14時) (レス) id: 2141c8a0fe (このIDを非表示/違反報告)
那戯田沢 亜須@スマホ使用不可で低浮上中(プロフ) - 夜美さん» ありがとうございます!まだ推敲中ですががんばりますね!! (2019年7月5日 20時) (レス) id: a29dbc7b52 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:那戯田沢 亜須 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年4月19日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。