Legend Story5 (ページ26)

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「郁人、ごはん持ってきたよ」

布団にくるまって反対側を向く郁人に声をかける。

「…いらない」

「食べといた方がいいって。胃に吐くものがなかったら後でしんどいんじゃない？」

サイドテーブルに持っていたうどんを置き、そっといつもより熱い郁人の肩に手を添えた。

「いらないって」

そう冷たく言い放たれ振り払われたその手をめげることなく布団のなかに差し込む。
首と膝を抱えて無理やり身体を起こした。

郁人に心底鬱陶しそうに睨まれてるけど、俺は気づかないふりをして一口サイズに切ったうどんを口に近づけた。

「郁人、あーん」

「……」

「ほら、美味しいよ」

「……」

根比べみたいに頑なに口を開こうとしない郁人の口元にうどんをくっつける。つんつんと唇をうどんで突っついていると、しぶしぶ郁人が薄く口を開けた。

その隙間に器用にうどんを流し込む。
もぐもぐと動いた口に噛まれたうどんは、くたくたに煮込んだお陰かすぐにこくんと飲み干された。

「!!…どう?おいしい?」

「…うん」

「ほんと!?よかった!!」

次の一口もその次の一口も、郁人が食べてくれたことが嬉しくて何度も何度も郁人の口に運ぶ。

郁人も少しずつだけどなんとか食べてくれてて、半分くらいなくなったときだった。

「____っ!」

郁人が突然口を押さえた。

吐く！と思って慌てて洗面器を探したけどなくて、ゴミ箱を持ってきたときにはすでに遅く。

「おえぇっ…」

郁人は自分の手のなかにせっかく頑張ってさっき食べたばかりの昼ごはんを吐き出してしまった。
手のひらからこぼれ落ちた吐瀉物が、郁人の服と布団を汚す。

「、ごめ…っうぇえ」

「大丈夫だよ、全部吐いちゃっていいから」

ごめん、せっかく作ってくれたのに、と郁人は何度も吐き気と戦いながら涙を流して俺に謝罪を述べた。
俺はそんな郁人に大丈夫だから、と背中を擦ることしかできなかった。