ゼルトザーム屋敷の冒険【オリジナル】 (ページ40)

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第４０話　一日の終わりは日記帳と共に２ページ40

　いつの間にか、もう日は落ちていた。そんなに長い時間が経ったなんて信じられない。朝食以降なにも食べていないから、お腹は減っているはずなのに食欲が全くない。夕食を断って、私とルー君はそれぞれの部屋へと戻った。

　キュ、と蛇口を捻ってシャワーを出す。温かいお湯が降り注いでいくにつれて髪の毛がペッタリと大人しくなる。頬に張り付くそれを払う事もせず、ただただお湯を受け入れていた。疲れちゃった。今日は色んな事がありすぎた。とにかくフリッツさんが心配だった。目の前の曇った鏡を手で拭う。疲弊した自分の顔を見て、ふへ、と変な笑い声を上げた。

　これから何があるんだろう。怖い、怖くて仕方がない。

　私は正気を保っていられるのかな。

　シャワーを浴び終わって、髪の毛を乱雑に乾かした。パジャマに着替えて、寝る前の習慣を欠かさずに行う。新しいページに新しいボールペンを滑らせて。

　親愛なる日記帳さんへ。

　色んな事がありすぎて、自分でもよく分かっていない。

　ティアナさんは私達との出会いに喜んでくれた黄色のゼラニウムの花を飾ってくれていた。この花の花言葉ってね『予期せぬ出会い』なんだよ。何だか、かっこいいよね。
　それからティアナさんが花を買ったよろず屋に行ってきて、レナータさんという人に会った。私はそんなに悪い人じゃないと思うけれど、ルー君はずっと警戒していた。彼の意見を聞いたけれど、確かに謎が多い人だよね。

　そう、そして。そして、１階のある部屋で、お腹にダガーを刺されたフリッツさんを発見した。血塗れで、痛そうで、すぐにホルストさんを呼びに行ったんだ。でもそこにはフリッツさんの姿は何処にもなかった。パニックを起こしていたら、当の本人が元気な姿でそこにいて。

　一瞬、幻術にでもかかったんじゃないかと思った。でもルー君の意見を聞いてそれはすぐに違うって気がついた。どんなカラクリかは分からないけれど、お腹を貫通する程の怪我を負わせた犯人を私は許せない。

　なんて強く言ってみるけれど、本当は今にも逃げ出したいくらい怖い。

　……明日は、何が、起きてしまうんだろう。

　ボールペンの芯をしまって、日記帳を閉じた。早く寝たい。布団に潜ってギュッと目を固く閉じた。
　そうでもしないと、あの赤い光景が、蘇ってしまうから。