ゼルトザーム屋敷の冒険【オリジナル】 (ページ38)

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第３８話　現れるフリッツと混乱する彼らページ38

「どうしたのよ、血の臭いが廊下まで漂っていたけれど？」

　声の方を振り返ると、ティアナさんが後ろに立っていた。鉄くさい臭いに顔をしかめていたティアナさんは、床に広がった血の海を見ると「まあ！」と驚いた声を上げた。

「一体どうしたのよ！誰かひどい怪我でも……！？」
「お客様、とりあえずお部屋へお戻りください。我々も今状況が読み込めていないのです。どうか自室で待機を！」

　ティアナさんは心配そうに眉を下げたが、分かったわと返事をして廊下を歩いて行った。遠ざかる背中が微かに震えている。
　そうだよね、急にこんな騒ぎになって彼女も相当怖いはず。

「店長はどこへ行っちゃったんだろう」

　落ち着きを取り戻したルー君が室内にズカズカと入り込んで、血溜まりの側でしゃがみ込んだ。こんな状況なのに現場保存は良いのかな、とか思っちゃう。いや、うん、気にしている場合じゃないんだけどさ。

「……この様子を見る限り、店長が襲われたのは間違いないはずなんだけれど……」
「フリッツさん……無事だよね？」
「……そうとは言えないし、そうじゃないとも言えない」

　悲しみに沈んだ声のルー君は、初めてだ。
　せめて、せめて体さえあれば。どうして居なくなっちゃったの、どうして。
　あんな大怪我で、どこに。

　滲みそうになる涙をなんとか堪えているとホルストさんの短い叫び声がした。

　ハッとしてそちらの方を見て、私もルー君も、いよいよ自分が狂ったんじゃないかと錯覚した。

　いいや、錯覚じゃなくて本当に狂ったのかもしれない。

　そうじゃなきゃ、説明が追いつかない。

「あのー……ホルストさん？ルートヴィヒ？エラ？どうした？」

　だって、なんで。
　フリッツさんが自分の足で立って、軽快に話しかけているの？

　血を大量に失ったとは思えないほど顔色は良いし、ニコッと笑うその顔は先ほどまで死にかけていたとは思えないくらいで。

　ペタン、と膝から崩れて座り込む。
　絨毯の触れた指先が、滲み出た血で僅かに赤く染まった。
　この目で見る鮮やかな赤色も、この鼻で嗅ぐ鉄の臭いも。
　全てが現実であるはずなのに、当の本人はピンピンしている。