ゼルトザーム屋敷の冒険【オリジナル】 (ページ37)

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第３７話　消えたフリッツページ37

　廊下を走ってから程なくして、ホルストさんを見つけた。隣にいたジークヴァルトさんが咳き込んでいたから介抱をしているその場面に出くわした。

「お客様方！屋敷内を走り回らないでください！！」
「それに関しては申し訳ありません！でも緊急事態で！！ホルストさん、すぐに来てください！！」

　ルー君の口調にただならぬ何かを感じたのか、ジークヴァルトさんはアイコンタクトをとった。恭しく一礼して、ホルストさんは私達と共に廊下を走って行く。

　フリッツさん、フリッツさん。どうか無事でいて。お願いだから、生きていて。

　そんなに長くないはずの廊下が、私にはやけに長く感じられた。

「フリッツさん！！」

　ドアを乱暴に開けて室内に入る。焦燥と走ってきたせいで上がっていた息が、スン、と一瞬で静まり返った。あんなに酸素を取り込むのが苦しかったのに、今はその苦しみから解放されたみたい。
　いや、違う。息をするのも忘れてしまったんだ。
　冷や汗がブワッと溢れて流れ落ちる。隣のルー君も信じられないような目で部屋の中を見つめていた。

　居なかった。
　そこにはフリッツさんの姿がなかったんだ。

「な、なな、なん、で」

　呂律が回らない。
　さっきまでお腹を刺されて、あんなに血塗れで、なのにどうして。
　どうしてフリッツさんはこの場に居ないの？

「お二人様……緊急事態、とは？」

　ホルストさんが困った表情で私達を見つめる。そんな表情をしたいのはこっちの方だ、なんて言えたらどんなに楽なんだろう。

「そ、それが……」

　唇を震わせたまま、依然回らない呂律でなんとか状況を伝えた。
　私達が廊下を歩いていたら、不自然にドアが開いていた事。
　誘われるままに入って行ったら、そこにはお腹を刺されたフリッツさんが横たわっていた事。
　それからホルストさんを呼びに行った事。
　そして、現在に至る事。

　自分で説明していても訳が分からなかった。この状況が夢じゃないのは誰の目が見ても明らかだった。だって、床に敷かれたカーペットが赤い液体を吸って鈍い色に変わったいたんだから。まだ漂う血の香りだって、そう。
　五感はしっかりと「これは幻術ではなく現実だ」と伝えているのに、脳味噌は大パニックを起こして「現実ではなく幻術ではないか」と叫び続ける。

　一体、どっちが。どっちが、本当なの。